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第254話 side景

タケに言われるがまま、支度をしてタクシーに乗り、銀座までやってきた。 折角、いい気分のまま早めに寝て明日に備えようと思っていたのに。 しかしタケの慌てた態度が気になったから、とりあえずすぐに家を出た。 ここは先輩俳優に紹介してもらった飲み屋だ。 個室で店員も理解ある方が多いから、僕のような芸能人が急に顔を出しても騒がずに丁寧な接客をしてくれる。 暖簾をくぐって店員への挨拶もそこそこに、タケがいる個室のドアをノックして開けた。そこには電話で聞いていた通り、桜理とエリさんもいた。 「おう、景ちゃん早く座って!」 タケは僕の腕を引っ張り、無理やり隣に座らせる。 向かいに座るエリさんにニコリと目配せをすると、その隣に座る桜理にいきなり右手を掴まれて、手の甲を上に向けられた。 一瞬、三人が息をのむ。 その異様な雰囲気にふっと笑ってしまった。 「なに、いきなり。大事な話があるって言ってたけど」 「ねぇよ……」 桜理はそう呟き、僕の手を開放してくれた。 なんだ?と人差し指に指輪が嵌った自分の手を見ていたら、タケは興奮した様子で話し始めた。 「景ちゃん、いつからしてないんだよ!その小指に嵌めてた指輪!」 「え、指輪? えっと、先月かな」 「そんなに前から?安心して。俺たち、何処にあるのか分かったから」 「え?」 修介の元にあるということが分かったのだろうか。 よく理解できないでいると、タケはスマホの画面をこちらに向けた。 「この前のパーティの写真。これ、よく見て」 「え、このグラビアアイドルの胸を?」 「そこじゃねーよ! ほら、ここ」 指先を置かれた部分に視線を移した。そして僕は驚愕した。 修介の手とは言い難いごつごつとした指に、修介にあげたはずの指輪が嵌っていたからだ。 僕がこの指輪を見間違える訳がない。 オーダーメイドで、納得いくまで細部にまでこだわったから。 「なんで?」 僕は思わず声に出していた。 呆然としていると、タケは次の写真を出した。 「これ、朝井さんの手だよ。景ちゃん、朝井さんと先月一緒に仕事した? もしかしたら景ちゃんが気づかない間に盗んだんじゃねーかと思って」 次の写真は、朝井さんの顔がはっきりと写っていた。指が折り曲げられてよく見えないけれど、確かに手に赤く光るものがある。 僕はエリさんに断って、タケと桜理に席を立ってもらった。

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