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第255話 side景

個室を出て、通路の端で二人に小声で話し始めた。 「ごめん、エリさんもいたから。桜理、僕が修介と付き合ってるっていう事、言ってないんだよね?」 「ああ、言ってねーよ。ていうか言えそうにねーな」 「なんだよ景ちゃん。どうしたんだよ」 「おかしいよ。僕、この指輪、先月修介にあげたんだよ。どうして朝井さんが持ってるの?」 「「はあ?」」 僕は朝井さんとは長い事一緒に仕事をしていない。久々に会ったのは四日前だ。 あの時、珍しく朝井さんの方から僕に近寄ってきて…… 近寄ってきて、なんて言った? [もし新しい恋人がいるんだったら、ちゃーんと捕まえとけよ。悪い虫がつかないようにさ] なんだろう、この違和感。 いや、とりあえず考えられる事はこうだ。 修介はあの日、指輪はしてきていないと言い張っていたけれど、本当はその場にしてきていて、何らかの理由で朝井さんに指輪を渡してしまったのだ。 それだったら、なぜ僕に言わなかった。こんな事、隠し通せるわけではないのに。 「ええー?修介にあげたのー?じゃあなんで朝井さんが持ってんの?」 「おい、タケ。同じ事言ってんじゃねーよ。あれじゃねーの?朝井が、修介が指輪してるの見て、欲しくなっちまったんじゃねーの?」 「それで、修介が大人しく渡しちゃったってこと?」 「だってそれしかねーだろ?それか、無理やり奪われた、とか?」 「なんでそんな事してんの? てか、そんなに欲しかったなら自分で作ればいいのに。あ、それか景ちゃんの指輪だって修介から聞いたとか?実は景ちゃんの事が大好きで、指輪だけでも自分のものにしたかったとか?」 「ああ、それあり得んな。朝井、ゲイだもんな」 それを聞いて僕はハッとなった。 あの日、修介の様子がおかしくなったのはトイレから戻ってきた後だった。 もしかしたら、その前に朝井さんに何かを言われたのかもしれない。 朝井さんも僕に接触してきたのは、修介が帰った後だった。 修介に電話を掛けようとスマホを取り出したところで、エリさんがこちらに来て、話し掛けられた。 「あぁごめん、景の顔見たら思い出した事があって。景、この間のパーティに男の子連れてきてたでしょう?ちょっと細くて小さくて可愛い感じの」 「ええ。連れて行きましたけど」 「その子だわ。さっきテレビ局の前のカフェで桜理の事待ってた時に、朝井さんと言い合ってた人」 「え?」 「待ち合わせしてたみたいだよ。その男の子、私が行った時からすでに店の中にいたし」 「そ、それで、二人は何処に行ったんですか?」 「分かんないよ。駐車場の方に歩いて行ったから、車で何処かに行ったんじゃない?あ、もしかしてホテル?」 エリさんはクスクスと笑ってとんでもない事を言ったから、僕は驚きのあまり目を丸くしていると、桜理が慌てて言い放った。 「エリ、なんでそんな事言ってんだよ。いくらゲイだからって、誰でもホイホイ連れていくわけねーだろ」 「だってこの話、この業界では知らない奴がいないくらい有名なんでしょ?朝井さん、気に入った子は会ったその日のうちでも体の関係まで持ってくって。無理やりやられちゃった男の子もいたらしいけど、ほとんどは泣き寝入り。だからその子もやられちゃったらどうしよう。景の友達なんだったら、止めたほうがいいかもね?」 僕らは顔を見合わせる。僕はすぐに、修介の番号に電話を掛けた。

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