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第256話

最後のペンギンのショーも拍手しながらケラケラ笑っていた朝井さんは、まるで小さな子供のようだった。水族館をとても満喫できたようで、ようやく車に戻ってこれた。 朝井さんはシートに体をもたれてさせながら、ミントの香りがするガムをこちらに差し出してくる。 「食べる?」 「いえ、結構です」 フルフルと顔を横に振る俺を見て、んだよ、と文句をブツブツ言いながら、一人でガムを噛み始めた。 俺は窓の外の誰も通らない無機質なコンクリートがむき出しの駐車場を眺めながら、早く帰りたいなぁと思っていた。 「楽しかっただろ?水族館」 「あんまり」 「はあ? 嘘ついてんじゃねーよ。マンボウデカくてかわええーって言って写真撮りまくってたじゃねーか」 「うっ」 ばれてた。 少し離れた所にいたから気付かれていないと思っていたのに。 朝井さんはくちゃくちゃと咀嚼音を鳴らしながら、俺の方に体を向けた。 「ねえ。なんでお前、藤澤と付き合ってんの?」 「えっ、なんでって……?」 「いや、別に攻めてるんじゃねぇんだけどさ。あいつのどこら辺が好きなわけ?教えてよ」 「え……えーと……」 「教えないと、お前と藤澤の事世間にバラす……」 「はいっ言います!えっと、一言では言い表せないんですけど、まぁ、優しくて格好いいところとか、自分よりも先に他人の事を思いやってくれるところとか……」 なんでこんなことを言ってるんだろうと正直馬鹿らしくなったのだが、不覚にもエッチの最中の景の甘い囁きを思い出してしまい、耳まで熱くなってしまった。 朝井さんはそんな俺を見て、大げさにため息を吐く。 「ふーん。どこで知り合ったわけ?お前ら同い年だっけ」 「あ、そうです。友達の紹介で」 そのまま、景と何故恋人になったのかを丁寧に話してしまった。 だって、言わないとまたバラすぞって脅されたし。 景から告白をされた事を伝えたら、朝井さんはかなり驚愕な表情をさせて、豪快に笑った。 「ウケる。好きでどうしようもないお前に藤澤が仕方なく折れてようやく付き合えたのかと思ってたのに、まさか藤澤の方から告ってるなんてな」 「……」 今一度、冷静になった。 どうしてこんな事を朝井さんに言わないといけないとならないんだ?本当に、朝井さんの目的はなんなんだ。 そうだ、水族館も出てきたことだし、これでデートは終わったんじゃないか? これで、指輪を返してもらえるはず…… その時、俺のポケットの中にあったスマホが震えだした。 取り出して見てみると、画面には藤澤 景の文字が。 (え!なんで!?連絡はしないでって伝えたはずなのに!) 朝井さんも、誰からの着信なのか分かったようで、途端に顔を険しくさせた。

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