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第258話 side朝井
正直、名前を名乗られただけなのに悪寒が走った。
相当怒ってるみたいだ。
演技派と言われるだけある。こいつに飲み込まれそうになる感覚に陥りながら、俺は誤魔化すように笑った。
「あれ、どうしたの。俺の電話番号教えてたっけ?」
『今、北村修介と一緒にいますか?』
「……あれれ、僕の話聞いてる?」
『朝井さん、僕の指輪持ってますよね?正確には修介にあげた指輪ですけど。石倉猛の撮った写真に写っていたんです。朝井さんの手に、指輪が嵌められていたのが』
なんだよ面倒だな。バレてんのかよ。
ま、いっか。その方が面白いし。
『朝井さんと修介が今日一緒にいたのを見た人がいるんです。今何処にいるんですか?』
「さて、何処でしょうー?」
藤澤は何も反応を示さなかった。
うわ、すげー怖え。きっとこんな俺にイラついてしょうがないんだろうな。
畳みかけるように俺は明るい声で藤澤を追い詰めた。
「修介くんって可愛い顔してるよね。なんていうか、小動物系? デートの最中も俺にすり寄ってきてくれてさ、思わず頭撫でちゃったよ。写真も撮りまくったし」
『今、何処にいますか?』
いま、とはっきりと発して、また一層強く固い声に切り替わった。
俺はまたぞくりとしたけど、こんなに必死って事は、修介くんの話は嘘じゃなかったんだなと納得する。
藤澤は、あいつに相当なお熱らしいって事。
「何処にいるのか当ててみな」
『……』
「安心しろよ、変な事なんてしないから!……たぶんね」
そのまま電話を切って、電源も落としてやった。
藤澤は今頃悶絶してるに違いない。
そう考えると笑いが止まらない。
――昔から、大嫌いだった。
なんでも器用にこなしていく藤澤。
あの顔、目、体、声。その存在自体、何もかも。
早くこの界隈から消えればいいんだ。なのにいつまでものうのうと居座りやがって。
めちゃくちゃにしてやりたい、あいつの人生。
車に乗り込んでガムを捨ててから、となりに座る藤澤の愛する恋人に、俺はニコリと微笑みかけた。
「じゃあ、行こっか」
* * *
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