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第278話

景と喧嘩……昨日のあの出来事は俺との喧嘩、というわけではなさそうだし、この間のデートでは俺が勝手に不安になったりもしたけど、今のところ大きな喧嘩というのは付き合う前の瞬くん事件の時ぐらいか。 「うーん。そうやなぁ。まだ友達だったころ一度喧嘩して連絡取らんようになった時期あったけど、付き合うてからは喧嘩しとらんな。まぁ、まだ二ヶ月くらいやからね」 「そっかー。二ヶ月かぁ」 莉奈はしみじみと呟く。 莉奈は高三の頃からその彼と付き合っていると言っていたから、もしかしたらいわゆるマンネリというやつだろうか? 人ってやっぱり付き合い始めの頃のドキドキとか楽しい気持ちって薄れていくものだから、きっと些細なことで言い合ってしまったのかも。 「付き合い始めは、お互い思いやる気持ちも沢山あると思うけど、人って慣れてくるとそれが当たり前になって思いやりの気持ちも薄れてってしまうのかもしれへんな。で、なんで喧嘩したん?」 「あの、喧嘩っていうか」 莉奈が切り出そうとしたところでタイミングよく店員さんがやってきて、俺たちの前にグラスを置いた。 店員さんが奥に引っ込んだところで、グラスにストローを突っ込んでカラカラと氷を鳴らしながら、俺はもう一度尋ねる。 「で、なんで?」 莉奈もミルクをグラスに注いでストローを回していたけどピタッと止めて、背筋を伸ばしてから切り出した。 「昨日久し振りに彼氏に会ったんです。それで、バイト先で男の人に絡まれた時の話をしたんです。北村さんが助けてくれた時の出来事です。覚えてますか?」 「あぁ、覚えとるよ。あの二人組の事やろ?」 「はい。それで、北村さんの名前は出して無いんですけど、先輩が私のところへ来てくれて助けてくれたんだって何気なく話したら、それが気に入らなかったみたいで」 莉奈はおもむろにカーディガンの袖を肘の辺りまで捲った。 その左腕には、包帯が巻かれていた。 まるで俺が今手首に巻いている状態と同じように。

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