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第356話

それを聞いて、ドキンと心臓が跳ねて、顔がカッと熱くなった。 景がその事を詩音くんに話してただなんて、知らなかった。 そして直ぐにある疑惑が浮かんだ。 もしかしたらその事、二人で笑って話してたんじゃないか。 「あり得ないよね」って、景が苦笑いしながら詩音くんに話している情景が勝手に脳で作られ、再生された。 それだけでじんわり涙が滲んでしまったけど、唇を噛んで必死で耐えて、俯いた。 何も言わない俺に、詩音くんは構わず言葉を投げかける。 「俺その時期、藤澤さんと一緒に撮影してて、やっと修介さんに会えるんだって嬉しそうに話してたんですよ。それなのに、マンションに帰ってきたら修介さんはいなくて。藤澤さんは『きっと何か事情があるんだよ』って言って笑っていましたけど、内心ではきっと相当ガッカリしていたと思いますよ?」 「ご、ごめん、なさい」 謝る事しか出来ない。 心臓がえぐられるように痛くて、シャツの裾をギュッと握った。 「俺は、藤澤さんと同じ業界の人間です。華やかな世界だと思ってるかもしれませんけど、裏では毎日戦場で、少しも気が抜けなくて。修介さんは、その事分かってあげられてますか?藤澤さんの力になってあげられてますか?」 「え……」 俺はようやく顔を上げて、詩音くんと視線を合わせた。 詩音くんは相変わらず、余裕といった表情で俺を見下ろしている。 「俺だったら分かりますよ、藤澤さんの気持ち。あの人を追いかけてこの世界に入って、藤澤さんが修介さんと知り合う何年も前から、あの人の事をずっと見てきたから」 「詩音くん……?」 さっきからどんどん話を進められて、俺が何か言葉を挟む余地が無い。 とりあえず言われた事を整理して、何から話そうかと必死に考えていたら、また考える間もなく詩音くんはハッキリとした口調で俺に告げた。 「俺、藤澤さんが目を覚ましたら、藤澤さんに告白します」 俺はまた、ただ詩音くんを見つめたまま動けなかった。 告白?告白って、何? 告白って、好き、って言うことだよね。 ――詩音くんは、景の事が好き?   ようやく理解した俺は、何回も瞬きを繰り返して思わず前のめりになった。

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