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第355話
「あの、景、本当に寝てるんですか?さっき景と電話したんですけど」
勇気を振り絞ってそう言うと、詩音くんは「あぁ」と宙を見てからまた俺と視線を合わせた。
「それ、俺ですよ?結構似てると思いません?いつもより大分低い声出してみました」
「え?」
全然気付かなかった。
なんでそんな事……と言いかけた時、詩音くんの顔から笑顔が消えた。
「修介さんと、話がしてみたいなと思ったので、来てもらいました」
「話?俺と?」
「はい。修介さんの事、藤澤さんから聞いてますよ。知り合って半年程でお付き合いされたそうですね。それも、藤澤さんから告白されて」
詩音くんの言いたい事がよく分からなかった。
そんな事、俺に確認を取ってどうするの?
言われた事は本当の事なのに、なんだか羞恥心が沸いてきて、俯いてしまう。
俺に構わず、詩音くんは話を続けた。
「で、修介さんは大学生。藤澤さんは芸能人。凄いですね。あんな人とお付き合いされてるなんて」
それを聞いて、馬鹿にされてるんだ、と思った。
こんな人が景の恋人だなんて景が可哀そう。
そんな風に思ってるのかもしれない。
悲しくなったけど、そんな事自分でも分かってる事だから、いちいち反論なんてする気は無かった。
景と話せないんだったら、これ以上、ここにいる理由は無い。
そう思った俺は顔を上げて、詩音くんと視線を合わせた。
「あの、俺、もう帰ります。景の事、俺の代わりに見てあげてください」
そう言うと、詩音くんはしばらく何も発さなかった。
俺は何か間違った事を言ったかと不安になってしまう。
「あの、」
「いいですよ。これから藤澤さんの事、俺がしっかり支えていきます」
詩音くんの笑顔と、その言い方にすごく違和感を感じた。
そんな言い方、まるで。
「え?それって、どういう意味」
「修介さん。藤澤さんの誕生日、女の人と一緒にいたらしいですね」
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