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第354話

景は、この人――詩音くんと仲良くしてると言っていたけど…… なんで景じゃなくて、この人が出てくるの? あまりにも不意打ち過ぎて、詩音くんの顔をまじまじと眺めてしまった。 詩音くんも特に何も言わずにいるから、どうしたらいいのか分からない。 詩音くんの後ろを覗きこんで部屋の中を見ようとするけど、リビングへ続くドアは閉められていたから、景が中にいるのかどうかは分からなかった。 詩音くんは、俺が何を考えているのか分かったようで、フッと小さく笑った。 「藤澤さん、今寝てますよ?」 「……え?寝てる?」 「はい。なんだか最近寝れてなくて、体調万全じゃ無かったみたいだったので。無理言って、寝てもらいました」 「え、あ、そうなん、ですか」 体調が良くないの? それもとても心配だけど。 さっき、電話に出てくれたのに、寝ちゃったってどういう事だろうか? 待ってるって言ったのに。 中に入って景の元へ行きたかったけど、詩音くんは入れてくれるわけでもなく、そこから動こうとしないから、どう言えばいいのか分からなかった。 すると詩音くんは、急に俺を値踏みするかのようにジロっと全身を見渡した。 「北村 修介さん、ですよね?」 「え?」 なんで俺の名前、と思ったけれど、詩音くんは、俺が景の恋人だって事知っているんだ。 なら話は早い。俺はニコリとして詩音くんに言った。 「あ、はい。そうです。あの、中に入ってもいいですか?」 「え、どうしてですか?だって藤澤さん寝てますよ?」 詩音くんはクスっと笑いながら俺を見下してくる。 その顔には片えくぼができて、景そっくりだったからドキッとしたけど、その少し威圧的な態度と言葉に、俺は目を見開いて固まってしまった。 どうしてって……だって俺は、景の恋人で、景の傍に行ってもおかしくないはずで。 心配だから、顔だけでも見られたら安心なんだけど…… そう言えればいいのに、口からは何も出てこない。 なぜか緊張して、冷や汗が出てきた。 詩音くんも、俺と景がどういう関係なのか知ってるんだったら、入れてくれてもいいのに。 予想外の反応で、何て言えばいいのか戸惑ってしまう。

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