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第353話

「なんだよ。莉奈と部屋にいた事、景は納得してくれたって言ってたの、全部嘘だったのかよー」 「うん。ごめん」 「なら、直接会いに行ってまた謝ればいいだけの話じゃん。何ウジウジしてんだよ?」 「だ、だって、電話に出ないんやから、会いたくも無いに決まっとるやないか」 「うわー、うぜー、その決めつけ。そんなの景に直接聞かなくちゃ分かんねーだろ?ホントにたまたま忙しくて出なかっただけかもしんねーし……そりゃないか? いやっとにかく!」 翔平はテーブルを両手でバン!と叩いて、目を細めて俺を睨みつけた。 「会いに行けよ。このままでいいわけねーだろ?そんな弱気になってたら、受かる会社も受かんねーぜ?」 「……」 「ちゃんと言えば分かってくれるって。あいつ、修介の事大好きだから、莉奈に取られるとか思ってちょっと動揺したんだよきっと。今から行けよ、景のところ」 「え、えぇ?今から?」 「店長には俺からも言っとくからさ。会って、早くスッキリさせろよ」 「……うん。分かった。ありがと、翔平」 バックヤードから出て行った翔平は、店長を引き連れて俺の元へ戻ってきた。 泣くほど体調悪かったんだね、と変な心配をされて、疑う事もなく俺を早退させてくれたから、そのままの足で電車に乗り込んだ。 会ってくれるだろうか。そもそも今日、マンションにいるんだろうか。 いろんな不安を渦巻かせながら、渋谷駅で降りて、景のマンションの方に向かって歩いて行った。 その最中、ポケットから景の家のカードキーを取り出して考えた。 翔平も言っていたように、このままでいいわけ無いんだ。 ちゃんと、景と話さないと。 景がもし仕事でマンションにいなかったら、帰ってくるまで景の部屋で待っていよう。 そう決心した俺は、カードキーをまたポケットに仕舞い、景の番号に電話を掛けてみた。 出てほしい。 でもたぶん、出てくれないよな…… 二つの気持ちを交互に渦巻かせ、胸をドキドキさせながら、虚しく鳴るコール音を聞いていた。 いくら待ってもそのコール音は途切れる事は無かった。 やっぱり出ないか。 でも諦めて切ろうとしたその時、声が聴こえた。 『はい』 目を見開いて驚いた。 出てくれた! 嬉しくて、信じられない思いでマンションにいるかどうかを尋ねると、景は少し間を開けて応えてくれた。 『いるよ』 「ホンマに?じゃあ、あと二十分くらいしたらそっちに行ってもええ?」 『うん、大丈夫』 「あ、良かった……じゃあ、待っとってくれる?」 景は少し元気がなく、やっぱり怒っているように思えたけど、電話を取ってくれたっていうだけで充分だった。 電話を切った後、俺はすぐに駆け出した。 本当は二十分くらいでマンションに着ける距離ではなかった。 咄嗟にそう言ってしまって、今更後悔しても遅いけど、走っていけば間に合いそうだったから急いだ。 到着してからカードキーをかざして中に入り、エレベーターで上階へ向かう。 なんとか言った通り、二十分ピッタリくらいで着くことが出来た。 息を整えながらドアの前に立ち、再度キーをかざそうとしたその時、中から鍵の回る音がしたから、景が開けてくれるんだと分かった。 胸が早鐘を打っていた。 景はどんな顔をして出てきてくれるのだろう。 笑顔?それとも、あの日みたいに、俺を冷たく見下すの? 一歩下がって、緊張しながら唇を噛んで待っていると、ゆっくりと重いドアが開けられた。 (え?) そこにいたのは、景ではなく、景によく似た男の人が立っていた。 目と目が合って、一瞬でこの人が誰なのかが分かった。 俺、この人、知ってる。 だってこの前、この部屋で景と一緒に写真を見た。 俺はジッと見つめながら、その人の名を口にした。 「日高、詩音……くん……」

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