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第352話

彼氏と別れた莉奈は、景に見られたあの日以来、俺にバイト先でしか話し掛けて来なくなった。 会う度に、景は本当に怒っていなかったのかを訊かれて困った。 莉奈とのやり取りをたまたま翔平に聞かれてしまい、いつのまにか話に加わって、莉奈と一緒になってその事を聞いて来た。 初めの何回かは、俺は二人に嘘を吐いていた。 ――お互い忙しくしてて、あまり連絡を取れてないけど、変わらず仲良くやってるよ? 嘘を吐くのはもう無理だと思ったのは、三度目の電話に、景が出てくれなかった次の日だった。 時間帯を変えて電話を掛けても、全部電話に出てくれなかったし、折り返しもしてくれなかった。 やっぱり、バイバイってそういう意味だったんだ。 疑惑が確信に変わって、頭が真っ白になって、泣きたくなった。 バイト先はその日、空いていた。 夕方、翔平とホールで横に並んで、翔平のバカな話を適当に聞いていて、ふと会話が途切れた時、張り詰めていた糸がプツンと切れたように、つい口から零れてしまった。 「俺、景に嫌われたんかも」 「……はい?」 翔平は、突拍子もない発言にポカンとして俺を横から見下ろしたけど、俺は翔平の顔が見れずにただ前を向いていた。 「なんで? 莉奈との事は許してくれてんだろ?」 「実は、こっちから何度か電話してんのに、一回も出てくれへんし、返してもくれへんかった」 「え、マジかよ。じゃあ、まだ許してねーって事?」 「……許してないっていうか、景はもう、俺と別れた気でいるのかもしれん」 ずっと心の中でそう思っていたけど、実際に口に出したのはこの日が初めてだった。 別れた気でいるのかもしれない。 口に出してみると、やっぱり現実なんだと思えて、じわじわと喉の奥が詰まってきて、バイト中なのにも関わらず、ついに目から涙がぽろぽろと零れてしまった。 「え!えぇ~!何泣いちゃってんのぉ~?!ちょっと店長!北村くん具合悪いみたいなんで、後ろ連れてってもいいっすかー?!」 俺の只ならぬ様子に翔平はオロオロしながら、バックヤードに連れていった。 部屋の中央にあるパイプ椅子に、テーブルを挟んで向かい合わせに座った。 「お前、いきなり泣くなよ!ガキじゃねーんだからよっ!」 翔平は被っていたキャスケットを手に取り、それで俺の頭を思い切り叩いたから、その反動で俺のも脱げてしまう。 俺はなんとか涙を落ち着かせようと何回も深呼吸をして、ティッシュで涙を拭いた。 「ご、ごめん。なんか、自分でも止めらんなくて」 「で?本当はどうなわけ?溜め込んでっからそんな事になってんだろ? ちゃんと言ってくんなきゃ分かんねーよ」 翔平は頬杖を付いて前のめりになって聞いてくる。 俺はそんな優しい翔平に洗いざらい全てを話した。 翔平は全て聞き終えると、頭の後ろで手を組んでニヤリとした。

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