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第367話 side景
「修介?」
泣き声が小さくなってきたところで、僕がもう一度名前を呼ぶと、鼻をすする音がして、しばらくしてから「うん」と小さく返事があった。
「詩音に何言われたのか知らないけど、修介はそのままでいいよ」
『へ?』
「その、優しくて泣き虫な修介でいいよ。ありのままの君を、好きになったんだから」
きっと、ずっとずっと不安だったのだろう。
僕の身勝手な行動のせいで。
その上、詩音にも色々と言われて、気が気じゃなかったのだろう。
僕を困らせる事が出来るのは君だけだけど、君も、誰かの為にこんなに悩んで、誰かの為を思って泣いてしまうような相手なんて、この世で僕しかいないんじゃない?
顔とか、仕草とか、そんなんじゃない。
分からないよ。
なんで君を好きになっちゃったのかなんて。
「僕もごめん。電話に出なくて。もう二度と、そんな子供みたいな事しない。誓うよ」
でも、好きになった理由なんて、不鮮明でもいいんじゃないか。
これからも、ただ君の隣にずっといたいんだ。その気持ちの方が、何倍も大切で大事だ。
「早く会って、修介といろんな事したいな」
『……うん!俺も早く会いたい。会ったら何したい?何でも付き合うで!』
「そうだな……一緒にコーヒー飲みたいな。いつもみたいに部屋で映画でも観て本読んで、アイス食べて、二人で一緒に寝よう?」
『そんなんでええの?ボルダリングとか、行かんでええの?』
「ふっ、運動オンチの修介にはボルダリングは向いてない気がするけど」
『じゃあ、ダーツバーとか、ビリヤードとか……』
「ダーツやったことあったっけ?」
『無い』
「ビリヤードは?」
『無い』
「……修介がどうしても行きたいって言うんだったら行ってもいいけど、あんまり興味ないでしょ?」
『……』
「いいんだよ。修介とは、修介としかできない事をしたいの」
そう。修介とは、修介としかできない事。
あ、したい事、もう一つあった。
凄く肝心な事だ。
「あと、思い切り抱きしめて、唇に触れて、そのままベッドに押し倒してセックスがしたい」
そう言うと、ゴホッと修介の咳き込む声が聞こえて、すぐに「変態」と照れたように言われた。
でも分かってるんだ。
修介はきっと頬を染めながらも笑っている。
僕はベランダから部屋の中に入って、窓を後ろ手で閉めた。
「これから行く。君のところへ」
『は?これから?』
朝から仕事だから、あまり長い時間一緒にはいれないけど、それでもいい。
会って、ちゃんとこの手で触れたい。
僕は深呼吸をした。
「修介も、もっとちゃんと言ってごらん?多分、叶えてあげられる自信はあるよ。修介は僕に今、どうしてほしい?」
修介は、しばらく無言の後、ゆっくりと、でもハッキリと僕に言った。
『会いたい。めっちゃ会いたい。会いに来て?景』
「すぐに行くから。待ってて」
僕は電話を切って支度を始めた。
と言っても車のキーと財布を持つだけだけど。
玄関に来たところで、僕はふと歩みを止める。
もう一人、ある人の顔が浮かんだ。
僕はその人にも、伝えたい事がある。
その場で、翔平に電話を掛けた。
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