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第380話
「修介さん!本当に、すみませんでした!」
ここは都内の和酒和食のお店。
こぢんまりとした隠れ家的なこの店を、今日は貸し切っている。
景や景の友達と一緒に飲んでいたら、仕事を終えたであろう詩音くんが、暖簾をくぐって早々、座敷に座る俺の方につかつかと向かって来るから何事かと思いきや、いきなりそう言われた。
飲み会の席だというのに、俺は詩音くんに頭を下げられているから皆に白い目で見られているんじゃないだろうかと不安になる。
「ちょっと、詩音くん。ほんまもうええから顔上げて……」
「俺っ、嫉妬してました。あの時の俺を殴ってやりたいです!本当にすみません!」
もう一度深々と頭を下げる詩音くんを見て焦る。
桜理さんはその光景を見て、小声で景に話しかけていた。
「お前、モテモテなんだな」
「ありがと」
「今回集まったのって、これー?」とタケさんが横から入る。
「うん。詩音がどうしてもっていうから」
「まさか告白するなんてなぁ。景は修介一筋だってのに、いい度胸してるぜ全く」と桜理さん。
ここにいる全員が全員、俺たちの仲を公認……しているのかは詳しくは聞いていないから分からない。
もう、ペラペラ周りに話す景を注意する事は諦めた。
詩音くんは正座をしながら、また改まって背筋を伸ばし俺を真っすぐ見据えた。
「修介さん。一発殴ってもらえますか?俺の事」
「ええっ?そんなん出来へんで!」
「そのくらいしてもらわないと、俺の気持ちが収まらないんです。ほら、遠慮なく!」
そう言いながら詩音くんは自分の頬を人差し指でつつく。
「……じゃあ」
「はい!それはもう、一思いに!」
「殴らへんよ。その代わり、これからも景と仲良くしてくれへんかな?」
「え?」
「景と俺だと行けない場所とか、一緒に行ってあげてくれへんかな? 俺、アクティブな場所はちょっと苦手やから、景も詩音くんとだったら楽しめると思うんや」
「修介さん……」
「ついでに、俺ともたまに飲んだりしてくれると嬉しいんやけど……」
「修介さん!」
詩音くんは俺を思い切り抱きしめた。
「ありがとうございます!これからも仲良くして下さい、修介さん!」
「うん、宜しくね」
「あ、ちょっと詩音。すぐに離れて、僕のだから」
「はいはい!じゃあめでたく仲直りって事で、カンパーイ!」
桜理さんの一声をきっかけに皆がまた飲み始める。
少し経ってから、景の隣にタケさんが座った。
「いやー、景ちゃん。撮影ひと段落したんだよねー?本当にお疲れ様ー」
「あぁありがと。タケも最近忙しかったのに、泊めてくれたりしてありがとね? おつかれ」
「あのさ、実は俺も、景ちゃんに謝りたい事があるんだよね」
「え、何?どうせ大した事ないんでしょう?」
「ねぇ景ちゃん。絶対に怒らないで最後まで落ち着いて聞くって約束して?」
「ふっ。タケ。僕が今までタケに怒った事なんてある?」
「(何度もあるけど)あのさ、実は、俺も修介にさ……」
「は?」
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