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第405話 番外編 モコだけが見ていた
さっきいたショッピングモールから、景の車に揺られる事およそ三十分。
どんな大豪邸に招待されるのかと思っていたら、連れて来られたのはニュータウンの一角だった。
来る途中に和菓子屋に入って、店で一番値段の高い箱入りの詰め合わせセットを買った。
その袋を持って助手席を降りて、辺りを見渡す。
同じような家が立ち並ぶ中、「藤澤」と書かれたガラスの表札には葉の模様が入っていて、家を囲むようにある花壇には、様々な種類の花が色鮮やかに咲いていた。
「ここ?」
ここに間違いは無いのに、バクバク鳴る心臓と緊張を紛らわすために景に話しかけた。
「うん。もっとおっきいかと思った?」
「まぁ、正直、実家も同じように高級マンションの最上階か何かかと」
「前は翔平の家の近くのベッドタウンに住んでたんだけどね。僕が高校卒業した頃に引っ越してきたんだ」
「あぁ、だから……」
翔平と幼稚園からの幼馴染だって聞いていたのに、何でこんなに離れてるんだろうと思っていた。
納得したところで、景はいきなり家のインターホンを押そうとしたから、咄嗟にその手を掴んで阻止した。
「なに?」
「……やっぱアカンで。今日はやめとこ?俺、緊張しすぎてさっきのパンケーキ口から出そうになっとるし」
「何で緊張するの?大丈夫だよ、僕が全部言うから。修介は隣でお茶でも飲んでれば」
「景っ、まじでアホやろ?恋人の親に急に会うんに、緊張しない馬鹿がどこにおんねん」
「僕は修介の親に急に会うってなっても、緊張しない自信はあるけどな」
「そりゃあ俳優やから土壇場には慣れとるやろうな!俺は極普通の一般人やで! ていうかこんな大事な事、そもそも前もって言っといてほしいわ!」
「いきなり言う方が面白いかと思って」
「キーッ」
この変人変態王子には一般論は通じないらしい。
体を叩きながらあーだこーだ言っていたら、玄関の扉がガチャリと開いた。
「景、おかえりなさい」
その向こう側には、リバティ柄の膝丈ワンピースの上に、淡いブルーのカーディガンを着た可憐な女の人が立っていた。
肩くらいの艶のある黒髪に、すっと通った鼻筋。
俺よりも背が高くてすらっとしている。
一瞬で、瞳を奪われた。
(景の、お母さんや……)
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