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第406話

顔を傾けてニコリと微笑むその仕草と細まった目の形は、息子そのものだ。 景の腕を掴んだままだった俺は我に帰り、手を離して姿勢を正した。 「あっ、あのっ」 「あら?お付き合いされてる方を連れてくるって聞いていたけど」 自己紹介をしようと思ったけど、景のお母さんは俺と景を交互に見ながら不思議そうな顔をする。 まさか俺が恋人だなんて夢にも思わないだろう。 背中に冷や汗をかきながら口をギュッと噤んで、助けを求めるように景に視線を移した。 「母さんただいま。その事なんだけど、後でちゃんと話すから、取り敢えずあがってもいいかな?」 「分かったわ。ごめんなさいねこんな所で。どうぞ入って。えっと、お名前聞いてもいいかしら?」 「あ、きたっ、北村修介ですっ」 「修介くんね。狭くて何も無いですけど、どうぞゆっくりしていって下さいね」 先に靴を脱いで廊下を歩いていくお母さんの後ろ姿を見た後、張り詰めていた糸が切れたように大きく息をついた。 「なんとなく予想はついてたけど、景のお母さんってめっちゃ美人やなぁ」 「ふふ」 「何笑ってるん?」 「さっきの修介の慌てぶりが可笑しくて」 「……もう、どうなっても俺は知らへんで」 今まで何社も面接を受けて来たけど、それとは比べ物にならない程の緊張感で、もう当たって砕けろという気持ちだ。 景が全部言うって言ってるんだから、責任は全て景に押し付けて、言われたとおりに大人しくしていよう。 座って靴を脱いでいると、奥から犬の鳴き声がしたから振り返った。 「モコッ」 景が呼べば、モコは一目散にこちらに走り出してきて、あっと言う間に景の胸の中に収まった。 うれしそうに尻尾を振りながら荒く呼吸をするポメラニアン。 景は慣れた手つきで体を撫でてやり、モコも気持ちよさそうに身を預けて、なされるがままになっている。 これが噂のモコか。 出会ったばかりの頃、景は俺がモコに似ているから撫でたくなると言った。 今は就活で髪を暗く染めたから違うけど、そういえば出会った頃はこんな風な明るい茶色にしていたかも。 「モコ〜」 俺もなんとなくフニャリと呼んで手を差し出してみたけど、こちらに全く見向きもしない。 あれ、俺あんまり歓迎されてない? ポメラニアンって社交性があるかなと思ってたんだけど。 「初めは警戒心が強いけど、慣れてきたら一緒に遊んでくれるようになるよ。甘えん坊で臆病者なんだ。どこかの誰かさんと一緒で」 「誰やねん」 モコの背中をこっそり触ってから、靴を揃えて景の後をついていった。

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