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第407話

リビングに案内されて唖然とした。 景のマンション同様、無駄なものが一切ない。 あるのは大きめのテレビとソファー、観葉植物、ダイニングテーブル。 対面キッチンの中には、見たことも無いような調味料が棚いっぱいに並んでいる。 白で統一された家具や家電製品が置いてあり、壁には調理器具が沢山かかっていた。 景の後ろに隠れてキョロキョロ見渡す。 景は振り返り、俺の手元に視線を移したから、それでハッとした。 「あの、これ良かったら皆さんで食べてください」 そう言ってキッチンにいるお母様に、買ってきた和菓子の箱を差し出した。 お母様は目を丸くして、一瞬間が空いたから不安になったけど、すぐに嬉しそうな表情になって受け取ってくれたからホッとした。 「ありがとう。気を遣わせてしまってごめんなさいね。でもここのモナカ、美味しくて大好きなのよ。今お茶淹れるわね。手洗って座って待ってて頂戴」 「あ、俺も手伝います」 「何言ってるの。お客様なんだからそんなのいいのよ。景、コート預かって、洗面所案内してあげなさい」 ちゃんと自己紹介もしてないのに、いきなり手伝うだなんて言われても困るだけか。 変に好かれようとしすぎたかな、と反省しながら景を見ると、無言のまま笑顔で頷かれた。 どうやら、こちらのドギマギした気持ちは景には全てお見通しのようだ。 脱いだコートを景に手渡して、洗面所に向かった。 手を洗っていたら、また景に笑われた。 「修介、なんだか必死だね」 「だ、だって、どうすればええのか分からんし」 「いいんだよ、いつも通りで。夕飯食べてくでしょ?母さん料理上手だから美味しいよ。料理本とか出しちゃってるし」 「えっ、お母さんもそういう人なん?」 「ううん、普通の主婦だよ。ブログが人気なんだって。で、この前調子に乗って、美魔女コンテストにも応募して、最終の手前で落とされてたけどね」 そんなのどっからどう見ても普通の主婦じゃないと思う。 景の料理が上手なのはお母様の影響か。 どこまで完璧なのだ、藤澤家。 リビングに戻ってから景はお母様に尋ねた。 「そういえば父さんは?」 お母様は俺が先程渡した箱の包み紙を、一枚ずつ丁寧に剥がしていた。 「それがね、可笑しいのよ。さっき貴方から連絡もらったじゃない?そろそろ来るみたいよって伝えたら、急に煙草買いに行ってくるって出てっちゃったのよ」 「え、なんで」 「さぁ。恋人と会うのが気恥ずかくなっちゃったんじゃない?でも結局お友達が来たって分かったら、お父さん、気が抜けちゃうかもね」 俺と景はこっそり目配せをする。 景は変わらず余裕の表情で、不敵な笑みを浮かべていた。 景の足元で賑やかに走り回るモコを見ながら、俺はじんわり顔が熱くなっていくのが分かった。 やっぱり、普通は友達だって思うよね。 景はいつ切り出すのだろうか。 そして切り出したら、一体この場の空気はどうなってしまうのか。 未知すぎて何にも分からなかった。 景に促されてソファーの前に腰を下ろした時、俺の肩に手を置かれて、耳元で囁かれた。 「父さんが帰ってきたら、言うね」 景はクスッと笑って体を離すと、キッチンにいるお母様の手伝いをし始めた。 ますます肩に力が入る。 あんなセクシーな低音ボイスで囁かれて、余計に心臓がおかしくなるではないか。 俺を困らせる為にわざとやってんな、あのドS……。

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