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第418話
それを聞いただけで、絶対に大丈夫と自負していた気持ちが折れそうになった。
ただ思われているのと面と向かって言われるのとでは訳が違う。
とてもじゃないけど、お母様の顔を見る事が出来なかった。
やっぱりそうなんだ。
俺と景の事、お母様は反対してるんだ。
そう訊いてくるって事は、きっと俺の方から身を引いて欲しいって事なんだろう。
景の幸せを奪っているのかもしれないのは分かっている。
けれどこの先の人生、俺にとって景は必要不可欠で大切で、もう二度と離したくは無いんだ。
景とこの手で一緒に未来を紡いでいきたいんだ。
俯くと自分の左手の薬指には光る指輪が見えた。
俺はそれを右手の指先でなぞる。
まじないのように何度か行き来させると、じんわりと景の優しさや温かさが蘇ってくるようだった。
負けちゃいけない。
景に言われたようにその言葉を頭で反芻して立ち上がった。
「景の事は本気なんです。同性同士の恋愛は理解してもらえない事の方が多いのでお母様にそう言われるのも仕方ないと思ってます。ましてや景は芸能人だし、もし世間にバレたら景にも周りにもたくさん迷惑をかけるっていうのは十分理解しているつもりです。それでも僕らは一緒にいる事を選びました。お母様はそれが悲しいって思われてるんでしたら、謝る事しか出来ません。本当にすみません」
そう言って、お母様に向かって深々と頭を下げた。
「ちょっと、違うのよ。頭なんか下げないで」
お母様も焦ったように立ち上がり俺の肩を掴んで座らせて、エコバックの中からお茶のペットボトルを取り、俺に差し出した。
「い、いえ、大丈夫です」
「いいから」
手を取って握らせてくれたから、ありがたく受け取る。
いつか景が俺に渡してくれた時みたいだった。
一気にしゃべったせいで口の中がカラカラで喉も渇ききっていたから、一口飲んで喉を潤した。
キャップを閉めていると、お母様は眉を下げてニコッと笑った。
「誤解させるような言い方してごめんなさい。私は悲しいだなんて、ちっとも思っていないわ」
「え……」
「さっきも言った通り、あなたたちが幸せだと思うんだったらそれでいいのよ。確かにすんなり受け入れているかと問われたら、ちょっと戸惑っている部分もあってすぐには頷けないのだけれど、私は反対なんかしていないのよ。別れるつもりはないのかって、ちゃんと確認したかっただけ。でも、充分過ぎるほどあなたの気持ちが伝わって来たから。ありがとう」
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