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第417話
「修介くんは、嫌いな食べ物とかある?」
ニコリと笑った顔を見て少しだけ安堵した。
隣に並んで、少しの沈黙の後に返事をした。
「あ、特に、無いです」
「ふふ。嘘でしょ。本当の事を言っていいのよ。誰も怒ったりしないから」
見透かされているようで恥ずかしくなり、顔が熱くなった。
お母様は俺を気遣ってくれているようだった。
無垢な笑顔でそう聞かれると、勘ぐってしまっていたのが申し訳なくなってくる。
本当に俺をただの荷物持ちとして名指ししただけなのかもしれないのに。
「すみません。実はサーモンが苦手です」
「ほらやっぱり。聞いて良かったわ。ポキ丼を作ろうか迷っていたのよ」
「ポキ丼?」
「ハワイ料理で、小さく切った魚介の刺身をタレで和えるのよ。マグロとかサーモンとかイカとか。ポキって、ハワイ語で小さく切るって意味」
「へぇ、そうなんですか」
「サーモンの代わりに何か入れればいいかしらね」
スーパーに着いて買い物しながらも、お母様は畳み掛けるように俺にどんどん話しかけてくる。
最近のエンタメニュースとか、好きな音楽とか、大学の事とか、やっぱり当たり障りのない事ばかりだった。
レジでお金を支払い、野菜や果物を協力しながらバックに入れていると、俺にもようやく少しの笑みが零れた。
お母様は言葉の通り俺たちを受け入れてくれたんだろうか。
杞憂だったかもしれないとホッとした帰り道、お母様は立ち止まり、来る時には通らなかった脇道を指差した。
「ちょっとあそこで一休みしていかない?」
そこには児童公園があった。
木々に囲まれた公園は広々としていて、人口芝生が敷きつめられていて、アスレチックやブランコ、小さな山の形をした滑り台がある。
そこでは幼児や小学生が声を上げながら楽しそうに滑り降りていた。
もちろん断れる理由なんてない。
俺は小さく頷いて、お母様の後に着いていった。
中に入って、端にある木のベンチに向かって歩くお母様の背中を見ながら、少し冷や汗をかきつつも心の中で何度もつぶやいた。
大丈夫。大丈夫。
一緒にベンチに座ると、俺たちの視線は自然と走り回る子供たちに向けられていた。
「可愛いわね」とか、「あんな小さな子でも一人で滑れるのね」とか独り言のように呟くお母様に、無理やり相槌を打っていく。
そしてお母様の独り言がピタリと止んだ時、空気が一気に重たくなった気がした。
しばらくの無言の後
「修介くん」
お母様はそう言って静寂を切り裂いた。
「景とは本当に、別れるつもりはないの?」
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