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第416話

「どうしたん?景」 「母さんに何を言われても負けちゃ駄目だよ。僕の気持ちは絶対に変わらないから」 景の顔を見上げながら、俺も強い意志を持ってうん、と頷いた。 きっと景も、お母様がやっぱりよく思ってないんじゃないかって勘付いている。 じゃないと俺と二人きりになる理由は無い。 景はキッチンで洗い物をするお母様の背中をチラッと見てから、背中を丸めて自らの顔を近づけてきた。 それを跳ね除けることはせずに受け入れる。 互いに磁石で引き寄せあうようにして、こっそり秘密のキスをした。 それが今の俺にはとっても心強かった。 俺たちはきっと大丈夫。大丈夫だ。 キスをやめ、ほうっと熱い息を吐き出して視線を下に移す。 気配は感じていたけど、やっぱりモコが景の足元にいて、俺たちをジッと見つめていた。 「モコ、この事、シーッだからね」 景が悪戯っぽく笑って口に人差し指を当てると、モコは偶然にもキャンッと一吠えした。 理解してたらすごいな...…。 景はそのままモコと一緒にリビングに戻っていく。 俺は洗面所に入り、手を洗っていると背後から声を掛けられた。 「じゃあ行きましょうか」 「はい」 お母様の後に続いて玄関に向かった。 エコバッグを肩からかけたお母様は一足先に外に出る。 俺は景が持ってきてくれたコートに袖を通し、スニーカーに足を入れて靴紐を結んでから立ち上がる。 振り返り、景と目を合わせた。 「何話したか、ちゃんと後で教えてね」 「うん。行ってくんね」 お互い指先だけ繋いで体温を感じとってから、玄関の扉を閉めた。 数メートル先にお母様がいたから、小走りで駆け寄る。 少し距離を置いて後ろについて歩いていたら、お母様は俺を振り返った。

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