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第420話

玄関のドアを開けた途端、モコが外に出てしまうような勢いでこちらに掛けて来た。 景も玄関まで迎えに来てくれて、俺の手に持つ荷物を受け取ってくれた。 「おかえり。遅かったね」 「ちょっと寄り道しちゃって。ね」 「あ、はい」 お母様は意味深にこちらの顔を覗くから、景は少し難しい顔をしながら俺たちを交互に見つめた。 リビングに着くと、お父様はスポーツ新聞を読んでいた。 荷物を置いて手を洗い、景が手伝おうかとお母様に聞けば首を横に振られた。 「部屋でゆっくりしてらっしゃい。夕飯が出来上がったら声を掛けるから」 お母様の好意に甘えて、景と一緒にリビングを出た。 明るいブラウン色の木の階段を上り、手前にあるドアを開けて中に入る。 そこは六畳ほどの部屋で、絨毯が敷かれた上にスプリングベッドと、中身がスカスカの本棚と、折りたたみ式のテーブルと椅子が置いてあるだけで、とても殺風景な部屋だった。 俺がドアを閉めた途端、景は振り返った。 「母さんと何話したの?」 「んー、なんやったかなぁ」 緊張の糸が切れた俺は、目に入ったフカフカのベッドにポスンと上半身だけを預けて、うつ伏せになった。 目を閉じて顔をズリズリとそこに擦り付けるようにしていると、洗ったばかりなのか、シーツから薔薇のような香りがしてくる。 景もベッドに腰を下ろしてから横向きに寝転がり、肘をついて俺の顔を覗き込んだ。 「何笑ってるの」 「ん?別にぃ。それよりこの部屋、なんも無いなぁ。使っとらんの?」 「年に一回帰って来れればいい方だし。それより、話逸らさないでよ。母さんとは何話してきたの?随分と長かったけど」 「そう?そんな長かったかなぁ」 「……笑ってるって事は、反対はされなかったってこと?」 景も腕を伸ばしてふわふわの布団に頭を預けた。 目を開けてそちらを向くと、思ったよりもすぐ近くに景の唇があったから少し驚きながらも、片手で景の頬に手を添えて、親指でその目尻を撫でた。 「景とお母さんって、そっくりやで」 「何それ。答えになってないし」 「笑った時のこの目尻に入る皺とか、顔傾けた時とか」 「もう。君は人の話を聞いていないね」 「景、大好き」 その言葉を合図に、景の大きな手の平も俺の頬に添えられ、今日何回目かの秘密のキスをした。 ドアは閉じているから、その安心感からかさっきよりも大胆になっていた。 口内をこれでもかと言うほど貪る。 舌を伸ばして景の歯列をなぞったり、音を鳴らしながら舌を咥えたりしているうちに、あっという間に全身が熱を帯びてしまった。 上半身だけが乗ったままの変な体勢だった俺は、景に腕を引っ張られてしっかりとベッドに乗せられてしまった。

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