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第438話
なんとかオカンを落ち着かせて、発車させてもらった。
想像よりもミーハーなオカンの反応に恥ずかしくなっていると、景に脇をつつかれて小声で話しかけられる。
「お母さん、修介にそっくりだね。顔も性格も」
「全っ然。あんなキャピキャピしてへんで」
「驚いて『えっ』て言うところとかそのまんまだよ。お父さんもきっと、ひょうきんな方なんだろうね」
「あぁ……いや……オトンはそうでもないんよね」
実は父とは、随分とちゃんと話していない。
たまたまなのか、それともわざとやっているのかは知らないけど、俺がたまに帰省しても会わないのだ。
一年前に帰省した時は、めずらしく一日家に一緒にいたけど、ほとんど会話は無かった。
ご飯を食べ終えたら早々と自分の部屋に戻って、読書や映画を楽しむのが趣味。
昔からそうだった。
父の事が嫌い、とかそういう感情は無い。
かと言って大好き……とも言いがたい。
本当は景の家みたいに、親子で何でも話せる関係が理想なんだろうけど、俺の家ではオカンが何か話題を振らないと、俺と父が自ら何かを発言する、という事が無いのだ。
今日は一応、父も一緒に御飯を食べる事になっている。
まぁたぶん、景の事だからうまく会話してくれるとは思うけど。
自宅に到着して、玄関のドアを開けると懐かしい匂いがした。
い草のいい香り。
景のマンションや、俺のアパートには無い独特な匂いだ。
靴を脱いで、二階の俺の部屋へ案内する。
マットレスベッドの横に、既に布団が敷かれていた。
「景、ベッドで寝てええで。俺布団で寝るから」
「え、僕がこっちでしょ。気遣わないでよ」
「いやいや、人気俳優の藤澤 景さんを床に敷いた布団に寝かすだなんて、事務所的にNGやろ」
「ふふ。なにそれ。じゃあ、ベッドで一緒に寝ればいいんじゃない?」
「それはほんまにアカンで!今日は絶対、エロい事は禁止!」
はーい、と少し残念そうに唇を尖らせる景を見て、景の実家で抜かれてしまった事を思い出す。
今日はなんとしてでも、そんなエロい事は絶対にしない!
心に留めながら階段を降り、リビングへ向かう途中、ニャム太の気配を感じた俺は廊下にしゃがみこんだ。
景も気配を感じたみたいで、黒目だけを動かして辺りを見渡す。
「どこに隠れてるんー?このお兄さん怖ないでー。ちょっと変態なだけやでー」
「やめてよ。ニャム太、余計に出てこなくなっちゃうでしょ」
マンチカンのニャム太は人見知りだから、見慣れない人が来ると絶対に姿を現さない。
何度かこの家に来たことのある瞬くんの前には一度も姿を見せなかった。
いつもはカーテンの後ろとかソファーの下に身を潜めてる事が多いんだけど、今日はいない。
探すのを諦めてリビングに行くと、写真集と油性マジックを手に持ったオカンが立っていた。
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