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第451話
「瞬くんは、就職は?」
「あぁ、決まったで。小さな印刷会社やけど、そこでデザインの勉強もしながら仕事してこうと思っとる。修介は?」
「う……まだ」
「そうか。まぁまだ時間あるし焦らんでも。もしどこにも就職出来んかったら、藤澤さんとこに永久就職でええんちゃう?」
ケラケラと笑う瞬くんの言葉に、本当に出来なかったらそれでもいいかもと一瞬考えたけど自分を戒める。
「あ、瞬くんは、今そういう人は……」
瞬くんと色々とあったのにそうやって訊いていいものなのか少し迷ったけど、気になっていたから訊いてみた。
瞬くんは腕組みしながら一瞬考え込んで、ポツリと呟く。
「実はな……俺、まだ修介の事が諦めきれてへんみたいなんや……」
「えっ?」
動揺した声を先に出したのは景の方で、咄嗟に俺の事を背中の後ろに隠した。
景が牽制するように瞬くんを見ると、瞬くんは思いきり吹き出して笑い出す。
「あはは。冗談ですよ!そんな怖い顔せんで下さい!俺、ちゃんと彼氏いますから」
「……」
景は呆れた顔をさせながらも安堵したようで、俺から身体を離した。
全く。瞬くんは相変わらずだな。
「こいつ。カッコええやろ〜」
瞬くんは俺達にスマホの写真を見せてくれた。
瞬くんよりも少し年上に見える顔の整ったイケメンの男の人と、どこかのつり橋の上で仲良く肩を組んで笑っている。
「うんっ、カッコええ!いつから付き合っとるん?」
「つい最近やねんけど、SNSではずっと前から繋がってた人。話してくうちに、住んでる所が意外とすぐ近くだって分かって、試しに会ってみようかって言われて。ノリが合って面白くてなぁ」
「そうなんか。良かったなぁ」
明るく話す瞬くんを見て、もう先輩の事は吹っ切れたんだろうなと安堵した。
この人とずっと、幸せでいて欲しいなって心から願った。
景は気を遣ったのか、向こうのベンチで煙草を吸ってくると言い、俺と瞬くんの二人だけにした。少し遠くに行ったのを確認して、瞬くんは俺に耳打ちをしてくる。
「お前、ホンマにあんなスターと付き合っとるんやね」
「そ、そうやで。俺やって未だに信じられん時あるよ」
「ホンマにあの人と付き合うって聞いた時は俺も超ビックリしたけどな。ここまで一緒に来るんも大変やなかった?」
「うん。早速東京でバレて追いかけられてもうてな。景、走って逃げてたで」
「やろ〜?一緒に住むんもええけど、開けっ放しの窓際とか玄関でキスなんかせんでな。ゴシップ好きな奴なんていくらでもおるんやから。俺、モザイクかかった修介の顔とかネットで見つけんの嫌やで」
「う、うん。それは本当に、気を付ける」
景は車の中でも外でも所構わずキスする癖があるから、そこは本当に直して貰わないと。
色々と決め事を作らないといけないな。
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