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第453話 二人はずっと一緒
景と迎える、二度目の春。
無事に引越し業者さんとのやり取りも終えて、部屋の窓から群青の空を見上げていた。
時折、桜の花びらが風と共にやってくる。
近くの近代美術館の庭に咲いている桜の木からだろう。
この街はカフェや喫茶店や古本屋も多く、それを目的にくる観光客も多い。
この街に住んでみようか、と提案してくれたのは景だった。
本当に良かったと思う。
ゆったりとした時間が流れているし、街の人ものんびりとしている。
今いるオートロックマンションの部屋は、俺がいたアパートの部屋よりは随分と広くなったけど、景がかつて住んでいたマンションの半分の広さにもならない。
「狭い方が密着出来ていいよね」と景は笑っていたけど、本心なのかどうか。
玄関の鍵が開く音がしたから、一旦荷物解きを辞めて、玄関の方へ行く。
仕事を終えた景は、中に入りきちんと扉を閉めてから、俺に向かってニコリと微笑んだ。
「ただいま」
「おかえりー」
ぎゅう、と抱き合ってキスをする。
多分きっと、毎日するんだろうなぁ。
体を離し、部屋を見渡しながら景は軽くため息を吐いた。
「荷物解くの、面倒だなぁ」
「景、一週間前に荷物運んでもらったんに、全然やっとらんな」
「結局時間取れなくて慌てて詰め込んできちゃったから、どこに何が入っているのか分からなくなっちゃって」
「そうやって怠けとったら、ずっとあのまんまの部屋で寝る事になるんやで。早う片付けんと」
隣の寝室を覗く。
ベッドの周りにも、ダンボールの箱が山ずみだ。
辛うじて着替えや調理器具などはすぐに出せたようだけど、季節外れの洋服や細々した物はずっと入れっぱなし。
「あ、そうだ。これ、さっきおばあちゃんから頂いちゃって」
「え、いつものおばあちゃん?」
「そう。悪いからいいですって言ったんだけど、半ば強引に渡されちゃって」
景は持っていたバッグの中から箱を取り出し、テーブルに置いた。
たまに会う70代くらいの品の良いおばあちゃんはこのマンションのすぐ近くに住んでいて、俺達を孫みたいに可愛がってくれている。
おばあちゃんはきっと、景が芸能人だということは知らない。
この間二人で歩いていた時にも偶然会って、ここら辺でおすすめのお店をたくさん教えてくれた。
箱を開けると透明なパックがあって、フルーツのロールケーキが二つ入っているのが見えた。
箱には、すぐそこにある老舗ケーキ屋の名前が記載されている。
きっと自分用に買ったのに、ばったり出会った景にわざわざくれたのだろう。
「わー美味しそう!食べよ食べよ」
「あれ、荷物早く片付けるんでしょ?」
「一回おやすみ」
二人分のコーヒーを入れ、お皿を並べてテーブルに向かい合わせで座った。
生クリームの部分をフォークでたっぷりと掬いながら頬張ると、甘さがじんわりと口に広がって幸せな気分になる。
食べ終えてから、荷解きを再開しようと思っても満腹で眠くなってしまい、やる気が無くなってしまった。
俺は自分の部屋から持ってきた若草色のソファーにゴロンと横になる。
すると景が上に覆いかぶさってきた。
「ちょっ!食後やで」
景はそのまま、俺に啄むようなキスをする。
大好きな甘い甘い香りとコーヒーの味で、心地よくていつまでもこうしていたくなる。
背中に手を回してしがみついた。
すると案の定、お互い形を変え始めた足の間のモノに気付いて、様子を伺うように見つめ合う。
「……」
「……」
「……お、俺は、ええよ」
「ほんとっ?」
水を得た魚のように生き生きとした目を輝かせる景は、あっという間に俺をお姫様抱っこして寝室に連れていき、ベッドの上に優しく降ろした。
ベッドは景の部屋にあった物だ。
周りがダンボールの箱だらけっていうのもムードがないけど、ずっとしていなかったし、俺もやる気満々になっていた。
「お祝いしなくちゃね」
「ん?何を?」
「就職祝いと、引越し祝い。あと、この部屋で初めてキスとエッチをする事」
キスをされながら、思う。
景はいつもバカなんだから。
「あと、これからの僕達にも祝福を」
でも、そんな景が大好き。
ずっとずっと、一緒にいようね。
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