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第105話

背中を向けていた彼が、俺の方に向き直る。 薄暗いのに、はっきり見えた鳶色の瞳。 その瞳は、確かに不安に満ちていたが、あのときの怯えは見えなかった。 むしろ……。 「えーっと、突然、こんな所に呼び出して、ごめん…」 芯を捉えるような瞳が俺を射抜く。 あのときのキス以来、怖くて見れなかった彼の瞳。 「て、寺島、お」 「待った!」 その瞳に勇気づけられ、俺は彼の言葉を止める。 静かな室内に、自分の深呼吸が響く。 「雅実、俺はあなたのことが大好きです」 今度は、俺が彼を射抜くんだ。

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