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リハーサル
『―― ナツ、ぼうっとしないで!」
バックバンドをやってくれる軽音部の部長に
大声で怒鳴られて、我にかえる。
中1の時から趣味でユーチューブに投稿してる
【歌ってみた】動画の撮影リハーサルの最中、
物思いにふけってしまったのだ。
今は集中しなくてはならないのに、
こんな調子では貴重な時間を割いて
俺に協力してくれる軽音部の皆んなに申し訳ない。
「ご、ごめんなさい。もう1回お願いします」
『―― 鈍感な桐沢七都芽くんに改めて告白するぞ。
俺はお前が好きだ。付き合って欲しい』
あの、衝撃的な告白から1週間が過ぎた……
竜二は会社の上半期決算で、
かなり忙しそうにしている。
俺の方は公私共に相変わらずで ―― ってか、
竜二からの告白が気になり過ぎ、
勉強も部活も手につかないような状態で
凄く困ってる。
「ちょっと休憩を入れよう」
部長は片手を上げると、俺のそばにやってきた。
「どうしたの? 何だか今日は上の空って感じだけど」
「アハハハ……しっかりしなきゃね」
はぁ~っ、と、大きくため息を吐くと
ポケットのスマホに手をやる。
さっき竜二から
”今夜も遅くなるので夕食は先に済ませていろ”
との連絡メールが入った。
”気は長い方じゃない”と言っていた竜二が
1週間も待ってくれたのだ。
そろそろ答えを出す時だ……。
竜二の事は嫌いじゃない……ってか、
どちらかと言うと好きだ。
なら、あの告白にさっさと答えて、
すっきりしてしまえば良さそうなものだが。
やっぱり最後の最後に引っかかるのは、
そのうち竜二はお父さんの跡を継ぎ
”組織のトップになる男”だという事。
竜二の言う ”付き合い”が
身体だけの割り切った関係ならまだ気は楽だが。
なら、わざわざあんな真剣に言わなくたって
良かったハズ。
仮にあのままなし崩しで身体を求められても
抵抗はしなかった。
そりゃ、初めてのセッ*スに対して怖さはあったが、
竜二とならいいって思っていた……いや、今でも
そう思ってる。
好意を寄せてる人から真剣に告られてこんなに悩む
なんて、俺もかなり可怪 しいな。
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