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Open your mind ―― 3

 夜は竜二と一緒に、神楽さんが頼んでいてくれた  超豪華な松花堂弁当を食べた。  ごちそうさまでした、と食事を終えた俺に  自ら煎茶を淹れてくれ、竜二は缶ビールを飲み  ながら話しを切り出した。 「―― あの時は何だって2丁目なんぞで  ふらふらしてたんだよ」 「……自分の事、確かめたかったんだ」 「確かめる ―― って、お前ゲイなのか?」  俺はゆっくり頭を振った。 「でも、そうなのかも知れない。どっちかって言うと  女の子といるより同性といた方が楽しいし、友達が  グラドルとかAKBの話題で盛り上がってても、  全然ついていけないから」 「そいつぁ単なる好みの問題じゃねぇのか?  それに今の時代、ゲイ・レズ・バイの境界線はかなり  曖昧だからなぁ。男といる方が楽しいとか、女ネタに  ついていけねぇとか程度なら、そう気に病む事は  ないんじゃないか?」 「そうなの?」 「ま、ナンパされてぇなら、制服着てくるのはアリだな  あそこら辺の連中はそうゆうの好きらしいから」 「ナンパとかまでは考えてなかった」 「じゃ、何しに行ったんだよ」 「ただ……誰か、相談出来る人が欲しくて……」 「祠堂学院なら専任カウンセラーくらいいるだろ」 「もちろんいるよ。でも、先生なんかに言ったら、  その日のうちに親へまで連絡がいって、次の日には  学校中の晒しモノだ。の成瀬はホモだって」 「(ため息と共に)なるほど、今時の若者は  えげつないね……」  竜二は胸ポケットから取り出したタバコを  口にくわえ、ライターの火をかざしてから、  ふっと気付いたよう、 「タバコ、いいか?」 「うん、どうぞ」 「んじゃ、遠慮なく ――」  と、くわえタバコに火を点け、紫煙を燻らす。 「あの時は、助けてくれてありがとう。  変なこと言って、ごめんなさい」 「んー?」 「人殺し、とか、人攫いとか ――」 「あ、あぁ、テンパッてたんだろ。しょうがねぇ。  ってか、2丁目っつても初心者向けの店があった  だろ」 「うん。ネットでもちゃんと調べたよ。  ”ツバキ”って店、知ってる?」 「あぁ、ちょうど2丁目と**の境にある老舗だな」 「そこへ行こうと思ってたら途中で道が判らなくなって  あの小父さんに道を尋ねたら、ツバキなんかへ  行くより自分が買ってあげるとか言われて、いきなり  腕を掴まれて……」 「ハハ ―― そんなんでよく2丁目なんかへ  行く気になったな。  無駄にチャレンジ精神だけは旺盛なんだ」 「! 無駄に、って……酷いです。怖かったのに……  グスッ ――」 「あぁ――分かった、分かったから、泣くな」 「………」 「とにかく、てめぇの性癖確かめたいって青春の悩み  は分かったが。金輪際あんな街には行くな」 「うん。わかった」 「分かりゃあいい」 「でも……何か俺、凄く楽になった」 「ん?」 「ホモ、とか聞いたら、きっと皆んな俺の事、  嫌いになるんじゃないかって ―― 気持ち悪いって  病気とかって、軽蔑されるんじゃないかなって  ずっと思ってたから。でも、竜二は凄く親切で  嬉しかった」 「……分かんねぇぞー」 「え?」 「この親切さの裏には雄の下心があったかも?」 「え ――っ、そうなの?」 「ハハハ ―― ったくお前って奴は……とにかく  少しは警戒心を持て。この世に聖人君子は存在  しない。今回はたまたま分かり易い親父だったから  良かったものの、これがプロのコマシだったら、  拉致られて・輪姦(マワ)された挙句・  沈められたかも知れねぇんだぞ」 「!! 沈められる ――って、殺されるとか」 「ちげーよ、このスカタン。男娼小屋に売り飛ばされて  いいようにコキ使われるって事だ」  竜二は真剣な眼差しで俺をじっと見据え  諭すように言ってくれた。  こんな風に言ってくれた人はこの人が初めて……  実の兄だって ――   イヤ、あの事はもう忘れよう……。 「それより …… 誰かに何か言われたのか?」 「えっ、何かって……?」 「気持ち悪いだとか、病気だとか、ただ漠然と  怖がってる割には妙に具体的だ」 「……何か、可怪しいかな?」 「初対面の俺に親切だとか喜ぶのは無防備過ぎる。  ロクに夜遊びした事もねぇガキがくるにはディープ  過ぎるんだよ、あの街は」  俺は彼の鋭さに、思わず息を呑んだ。 「おまけにあの金持ち学校のお坊ちゃんが1週間も  家へ帰ってねぇのに、何故、親から連絡の  ひとつもない? お前の親はよほどの放任か?」 「あ ―― それは……」 「どうなんだ」 「ははは……まぁ、ちょっと、ね」 「言いたくねぇならいいけどな、俺は学校の先生でも  補導員でもねぇから」 「……おれ、めーわく?」 「あ?」 「もし、そうなら言ってね。すぐ、出て行くから」  俺がそう言うと、竜二は指をクイックイッと  曲げるようにして、俺を招く。    そして、俺が少し前にしたその身体をグイッと  抱き寄せた。     「!! 手嶌さんっ」 「めーわくなんて思ってたら最初からここに  連れ込んだりしてねぇ。忘れたのか?  俺はお前に惚れてるって言ったはずだ」   「そんなこと真に受けられるハズない」 「どうして」 「だって手嶌さんはオトナで、俺はヘタレなガキで。  何の取り柄もなくて……手嶌さんも俺も男じゃん」   「それがどうした」 「え、えっと……」     「なら、鈍感な桐沢七都芽くんに改めて告白するぞ。  俺はお前が好きだ。付き合って欲しい」  う、うわぁぁ……こんな至近距離でイケメンから  恋の告白されるって ―― マジ、心臓に悪い。  俺は今聞いた言葉が信じられなくて、  ただ、ただ、ポカンとしていた。 「ちゃんと聞こえたな? 返事は待つが、  俺はそう気が長い方じゃない。  なるべく早くイエスかノーか、決めてくれると  助かる。OK?」  そして、無意識のうちに頷いていた……。

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