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1-アケビ食いたい
討伐任務の多い隊に属しているため、山道は慣れたもの。
さっきまで岩場続きで、陽に照らされ、風に体力を削られうんざりだったが、木が生い茂り多少手入れのされた道を進む今は、鼻歌も出てピクニック気分だ。
前回は盗賊の討伐で大変だったが、今回は隣国が試すように仕掛けてきた国境侵犯。出兵なんてポーズだけ。体面を取り繕うようにちょろっと睨み合って威嚇するだけでいい。
「はぁ〜。のどかだなぁ」
オレは遊撃を許された将の一人で、固定の部下を持たず、その場の判断で手近な小隊に命令を下す。
これは日常的に部下の管理するのが苦手な将のために考えられた仕組みらしく、オレの性分にもあっている。
「ひーばーーり!いい声だなぁ〜」
「クライスト様、あれはウォーブラーですよ」
今行動を共にしているのは元部下が率いる小隊だ。
多くの小隊の特徴や兵士まで把握しているのは、戦場で兵士をちょい借りする遊撃将ならではだろう。
オレは部隊管理には苦手意識があるが、人付き合いは嫌いじゃないんだ。
「おお?あそこ!ほら、アケビ!採ってきてくれ!」
「またですか。もう……」
「おいおい、お前じゃない。ホインヘズ行ってきてくれ」
ムジャリクは背が高くてジャンプ力もあるが、雑でアケビの実が潰れたって気にしない。
その点ホインヘズは………あ〜………便所行きたくなってきたな。
「ホインヘズ、途中まで一緒いくか!」
「え……?」
「ムジャリク、オレたちは隊列から外れるけど気にすんな。今日は後続の補給隊に合流して野営するから」
「はぁ?俺もですか?でも……」
真面目だなぁ。アケビにたどり着くのに小さな谷を下る必要があるから、採ったあと急いで本隊に戻るより、後続隊に合流した方が楽だろうと思ったのに。
「んじゃ、テメェはアケビをとったら、この崖を駆け上って戻りゃいい。行くぞ」
重たい剣はムジャリクに預け、ホインヘズと緩やかな崖を滑りおりる。
それから岩場に足をかけ、少し登るとアケビが生っている場所についた。
振り返ると尾根沿いを隊が進んでいくのが見える。
ああ……やっぱあの崖は滑り降りるのは楽だけど、登るの大変だぞ。
まあ、いいか。ホインヘズの自主性に任せよう。
「……おお!こっち側すげぇ!」
山道から見えなかった、蔦の絡む岩場にアケビが大量に生っていた。
これなら自分の分をホインヘズに採らせる必要もない。
一つむしり取って、口に運ぶ。
「おおっ……ウメェ。ホインヘズ、他の奴らにも採って帰ってやれ」
「はい!いやぁ……うまそうですね」
ホインヘズも一つちぎってしゃぶりつくと、夢中でアケビを採り始めた。
よく熟れた実を品定めしてもう一つ。
「あ……!クライスト様、皮は捨てないで。それも持って帰れば調理してもらえますから!」
「へぇ。しっかりしてんなぁ。んじゃ、アケビを採ったらお前は部隊に戻れ。オレはもう行く」
「え、行くって、どこへです?」
「野糞だ」
「御意です!爽快な放出を!」
「おお、ありがとな」
ホインヘズに清々しい言葉をもらって、岩場を回り込む。すると少し先に沢が見えた。
近くまで行ってみるが、沢はけっこう深く、降りるにはかなり回りこむ必要がありそうだ。
せっかくケツ洗えると思ったんだけど……まあ、沢を眺めながらの野糞も清々しいし、いいか。
辺鄙な場所にばかり派遣されてるため、野糞も慣れたもんだ。
ここに来るまでに、すでに好みの葉っぱを摘み、いい具合に揉んでいる。
ズボンを下ろすと、ザッとしゃがみこんだ。
あ、しまった。草が生えてるから気づかなかったけど、ここ土じゃなく岩だな。
……まあ、いいか。
いい肥料だなっつって、雑草も喜ぶだろ。
ふう……ケツを清々しい風がなでていくぜ。
「……ふぁああ」
ふしぎだなぁ。
クソした後には必ずションベンしたくなるけど、その逆はあんまりないんだよな。
これってオレだけか?
みんなで連れグソして確認してみるかな。
……あ、わざわざ見なくても、普通に聞けばいいだけか。
サーという小川の流れと、サラサラという木々の葉音、チーチク鳥の声に、さわやかな若葉の匂いと、きらめく木洩れ陽。
「やっぱ野糞&放尿は最高だなぁ」
「『最高だなぁ』じゃねぇぞ、このクソっ垂れ!」
オレの感動をかき消す無粋な声が聞こえたと思ったら、頭にガンと衝撃がきて目に火花が散った。
ブンと耳鳴りがして、目の前の火花の残像が赤から黒に変わる。
……石ぶつけられた?
一瞬で気絶すればいいのに……なんで……こんなゆっくり気を失うんだ。
……あたま………イテェ……。
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