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2-コップの洗い方
ふっと意識が浮上し、ほほに当たる感触で岩場に転がされていることを知る。
目の前には……。
数人の男たちが次第に像を結んだ。
下品な笑い声も聞こえる。どうやら飲み会をしているらしい。
「お、目を覚ましたみたいだぞ」
横になっている肩を靴でぐいと踏み押され、手首を縄で拘束されているのに気づいた。
いや、それどころか。
この硬く冷たい感触……。全裸で転がされてる?
どうやら洞窟内のようだが、蝋燭で充分に明るさが保たれている。
「ここ……どこだ?」
「さぁ?山ん中だ。正確な地名は俺たちも知らねぇ」
スキンヘッドの男がニヤニヤ笑いながら答えた。
「オレは……どうしてここに?」
「『どうしてここに?』だってよ!答えてやれナジュール」
男たちが下品な笑い声をあげて一人の男を見た。
肩まで伸びたクセのある黒髪と無精髭の男は、不機嫌さ丸出しでオレに近づいてきた。
「俺様特製のスープを作ろうと準備をしていたら、煙出しの穴から水が流れこんできたんだよ。雨が降る様子もなかったのにと思ってたら、ボトボトクセェもんまで落ちてきてっっっっ!」
「ぐはっっ……」
いきなり力任せに腹を蹴られ、息が止まった。
「ちょっと手にかかっちまったんだよ!この野糞やろう。その上っっっ!野菜にまでっっっ!!!」
またガツガツと二発蹴られ、顔を踏みつけられる。
「おめぇ、なかなか極悪非道なことしてくれるよなぁ」
「流石に殴られても文句言えねーだろ?」
「また麓まで行って野菜盗んでくる身になってみろよ?それに何度も畑荒らされる農家も可愛そうじゃねぇか」
男たちが口々に囃し立てる。
「……それは、オレの不注意だ。悪かった」
だからといって、拉致はやりすぎだとは思うが……。
「そうだよ。お前が悪い」
グリッと顔を踏む足に体重をかけられた。
小石が刺さり頭が軋む。
「……謝罪は……する。どうしたらいい。どうしたら許してくれる?」
とっとと許してもらって、早く隊に合流しねぇと。
「どうしたらって……あーーーどうする?」
「そうだな。俺たちの気がすむまで好きに蹴られるか、テメェのクソまみれの野菜を食うか。どっちがいい?」
蹴られるのは却下だ。明らかにガラの悪いコイツらなら、死ぬまで蹴られることになりかねない。
それに命が助かっても、もう剣の握れない体にされてしまったんじゃ、おまんまの食い上げだ。
ならば。
はぁ………。
そうだ。オレの腹にあったものを、ただ腹に返すだけだしな…………。
「しょうがない……野菜……」
「あ、野菜は、もう捨てたぞ」
「はぁ?テメェ、なに気を利かせてんだよ!」
「ここ、洞窟だぞ?いつまでもウンコ臭い野菜を置いとけるわけねぇだろ!」
頬に大きな傷のある短髪のごつい男と、金髪を一つに結んだ細い男が言い争いを始めた。
「んじゃ、ストレス解消のおもちゃとして、蹴られてもらうことに決定だな」
「……まて、ストレス解消なら、他に……他に何か」
「他にって言われてもなぁ……」
スキンヘッドの男があごに手をあて考え始めた。
この男、案外素直だな。
「あ、そうだ。こないだの薬。商隊を襲撃した時の戦利品に薬がいっぱいあっただろ?あれを試そうぜ」
「はぁ?あんなもの試してどうするんだ?」
無精髭の男がオレの顔から足をあげた。
「商人はアレを必死に守ろうとしてただろ?てことは、通常よりかなり良い値のつくモンかも知れねー。けど、どのくらい強力かわかんねーままだと価格のつけようがねぇ。そして、アレは多分ストレス解消にうってつけだ」
「あー、まあ、そう……かもなぁ。ジョミ、ヌーベルに言ってこないだの箱持って来させろ」
「おう。……こないだの箱ってどれだ?」
金髪で細身の男はジョミというらしい。
「赤くて綺麗な小瓶の入った箱といえばすぐわかる」
無精髭のナジュールがピラピラと追い払うように手を振った。
話の流れからいって、こいつらは商人を襲う山賊か盗賊で、スキンヘッドか無精髭のナジュールのどちらかがボスのようだ。
しかし、どちらも絶対的なボスという雰囲気ではない。
ジョミはすぐに戻り、背後には十二歳くらいの短髪で素朴な少年が箱を手にしていた。
箱の中には一目で高級とわかる、香水瓶のようなカットガラスの美しい小瓶が並んでいる。
その小瓶を一つナジュールが受け取り、オレの目の前に突き出した。
「これが何かわかるか?お前みたいなウンコ野郎に使ってやるのももったいないくらいの、高級な媚薬だ」
「……あー、じゃあ、使ってもらうのも申し訳ないんで、謹んで辞退しよう」
正体不明の薬など、絶対にゴメンだ。
「野外でチンコ丸出しにしてたくせに、急に慎ましくなるんだな。けど遠慮はいらない。毒性はなく依存性は低めだって説明書に書いてある。……って、そっかぁ毒性も依存性もあんまねぇのか。そりゃ残念だな」
チッと舌打ちしてオレを睨む。
「なんなら、依存性のある他のヤクを混ぜてみたらどうだ?」
頬に傷のある男が余計なことを言い出した。
「『混ぜるな危険』だ。なんの面白いショーも見れないまま、いきなり死んだらつまんねーだろ」
ああ、そうか……!と、一同が納得しているが、オレにとっては混ぜる前でも充分危険な薬品にしか思えない。
「お、おい、お前ら……ボスは……ボスはどっちだ。話をしよう。不用意に野糞をして、ナジュールや他のみんなに悪いことしたって思ってる。慰謝料を払ってもいい。だから薬は勘弁してくれ」
スキンヘッドと無精髭のナジュールを交互に見るが、二人は顔をしかめるだけだ。
「何が慰謝料だ。てめ、軍の将校だろ?服になんか立派なバッジがついてたぞ。どうせ解放したらそれっきり、慰謝料なんか持って来るわけねぇし、うっかり取りたて行こうもんなら俺たちが捕まえられるだけだ」
「つか、ついこないだ仲間が捕まったばかりなんだよ!お前、残党狩りだろ!!!」
……このあいだ……ということは、こいつらオレたちが壊滅させた盗賊団か。
ボスは捕まって、幹部クラスで取り逃したのはナンバースリーとナンバーファイブと目される男。
たしか、鍵開けと下調べが専門だったか。
盗賊団はカリスマ性の強いボスの元、幹部クラスの上下はほとんどないって話だった。だからこの残党の中でのボスがまだ決まっていないんだろう。
幸いオレが盗賊団を潰した部隊にいたってことまでは気づいていないようだ。
それだけは絶対気づかれちゃいけない。
気づかれれば、オレを人質にボスの釈放を求めるという、ド定番の交渉手段に気づいてしまうかもしれない。
んなことされたら……。
アケビ採ってクソして拉致られた将校なんて噂が出回っちまう。
はぁぁぁ……。
あんま話を長引かせず、死なない程度の暴力か金で解決しねぇとヤバイな。
「オレは残党狩りなんかじゃない。国境線に向かってるんだ。えーと、慰謝料は、お前らが取りに来れないんだったら……振込とか宅配?」
「テメェ、俺たちをバカにしてやがるな」
「とっとと、薬ブチ込んでやろうぜ」
頬に傷のある男が、腕を強引に引いてオレを座らせると、口を開けさせようと鼻をつまんだ。
しかし、オレは口を引き結んだまま、唇の両端を開けて息をする。
「なんだこいつ、器用だな」
「どうする。口輪でも噛ませるか?」
「いや、ベッティ、足が上になるようにコイツをひっくり返せ」
傷のある男が、背後から座り込んだオレの腹を両腕でグイッと引き上げたと思うと、天地がぐるっとひっくり返った。
後頭部と肩を地面におさえつけられ、尻と縛られた足が天井を向く。
「ベッティ、コイツの足を少し前にやって、ケツをひらけ」
「え、ケツ開いてどうするんだ?」
「この薬を流し込むんだよ」
「ああー。なるほど、口から飲むより効くかもな」
「これ、塗っても効果ありって書いてるね」
箱を持ってきたヌーベルとかいうガキが笑顔で余計なことを言う。
ナジュールの固い指がオレの尻穴をグイッと割り開いた。
縛られた足をばたつかせるが、ジョミとベッティ二人掛かりで膝を押さえつけられる。
「や、やめてくれっっ!」
「気にすんな。すぐに良くなるから」
「気にするにきまってんだろっ……!さっきクソしたばっかりなんだから!!!!!!」
ナジュールの指がビクンと震え、眉がみるみる釣りあがっていく。
「っっっこの野糞野郎っっ!」
自分で尻に指をつけたくせに、人の太ももに指をネジつけ、脇腹を小さくボコボコと蹴ってきた。
地味にダメージの蓄積する蹴り方だ。
「ジョミ、ベッティ、川でこいつのケツ穴を奥の奥まで洗ってこい!!!」
「へーい」
ガタイのいいベッティがオレを肩の上に仰向けに担ぎ上げ、後ろで華奢なジョミが足を持ち上げる。
「な、なんだこの変な担ぎ方っ!」
「地面が見えないから不安だろ。受け身も取りづらいしな。下手に暴れると頭から岩に落ちるぞ」
ベッティが、がははと笑いながら、洞窟を抜けていく。
目の前に天井の岩が迫り、ぶつかりそうで必死で体を伸ばし、やり過ごした。
岩肌がだんだん明るくなり、木の緑と空が視界に入る。
木漏れ日に目をしかめながら、ガクガクと揺れる不安定な体勢に体を硬直させていると、ズルっとベッティが滑り、心臓が飛び出しそうになった。
空が斜めに揺れ、自分がどういう角度になっているのかわからない。大混乱のまましばらくじっとしていると、音や空気で川辺についたのを感じた。
「よっしゃ!そこだ!」
大きな手でぐっと抱えられたと思ったら……。
「うっっっぐぼぁっっ!ぷばっ。ぶばはぁっっ!」
川にズバンと投げ込まれた。
肩と腰を川底にしこたま打ち付ける。ということは、そう深くはないはずだが、目の前が気泡で覆われ、水面までの距離がわからずまた混乱する。
もがくより静かに浮かぶ方がいいと判断したが、水深はベッティの膝上程度のようだった。
「ぷはっっ!」
「おお。水も滴る良い男だな」
「滴るっていうか、おっさん、顔しか出てないけど」
ジョミにおっさんと言われ、地味に傷つく。たしかにコイツらよりは年上だろうが、スキンヘッドよりは年下のはずだ。
「よっしゃ、洗うぞ!ジョミ背中を支えて足を持て」
「でも、ケツの中とかどうやって洗うんだ?」
「川でコップ洗うのと同じだろ。上流に向けてケツの穴広げれば……」
いきなり太い指を突っ込まれてギュッと穴を絞った。
「あ、こら、ケツひらけよ」
「ぅがぶっ……なんでだよ!うぷっ」
「洗うからだよ」
川に顔が沈むのも厭わずもがく。
しかし、抵抗をすればするほど、ベッティが雑に親指をねじ込もうとしてくる。
「まだ?水が冷たくて寒くなってきたんだけど」
「こいつケツの穴、開かねぇんだもん」
「指入れるんじゃなくてさ、あっち、岩が重なった水流が強いとこ連れてけば?」
「おお?」
船の帆のように足を突き上げ、川に浮かされたまま移動される。
たしかにさっきの場所よりかなり水流が強い。
ザプッザップと音がうるさく、二人に支えられていなければ、グルグル回転しながら流されてしまいそうだ。
「んで、尻たぶ広げたらちょっとづつでも入ってくだろ?」
「んーどうかなぁ」
「…………」
「…………入ってる?」
小首をかしげるベッティには無視を決め込んだが、ちょっとづつ冷たい水が入ってきている気がする。
しかし、それ以上に体が冷えて、尻穴の感覚が無くなってきた。
「あー、俺も冷えてきた。なぁ、ケツに水、入ってる?」
「ぅあっっ……!」
冷え切って力の入らない尻穴に一気に親指が入ってきて、それが抜けると同時にごぷりと水が流入してきた。
「おおっっ!やっと入ったか」
さらに細い指が二本入ってきて、その隙間からどんどん水が侵入し、腸が冷える。
「イイ感じ?入ってる?」
わかりやすくキュウキュウグルグルと腹が鳴り始めた。
「おお、本人より腹の方が素直だな」
「やっしゃ、流すか」
ベッティに雑に引き上げられ、足元ではジョミが穴を広げているようだ。
「これって流しただけで綺麗になるもの?」
「……よっしゃ!もういっちょ、しっかり洗うか」
「おう!」
「ひい加減にひろ……!」
威勢良く言い放ったつもりだったのに、体の外も中も冷えて、歯が鳴り口がうまく回らない。
また水につけられて、今度はジョミが指を突っ込んで洗っているようだ。
さっきから抵抗しようともがいているつもりだが、とにかく体が冷えて、ガタガタと震えるのがせいぜいだ。
そしてすぐに抵抗する気も失せ、尻穴に突っ込まれた無遠慮に中をグルグルかき回す指と、体を支える二人の手の温もりを追うことに必死になっていた。
「よっしゃ。このくらいすればいいだろ」
「戻るか」
ベッティが濡れたままのオレを肩に担いで歩き始める。
肩の上でブラブラと揺られながらオレは手足の拘束が緩んでいるのに気づいた。
これをほどいて洞窟に戻るまでにどうにか逃げないと……。
頭ではわかっているが、オレの体はガタガタと震えるのに忙しく、端が垂れるほど拘束が緩んだにも関わらず、自分の意思通りに動かすことすらできなかった。
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