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6-甘い性格・甘い生活
オレが目を覚ますと、盗賊たちはまだ夢の中だった。
「うがぁあぁ……。さすがに、体いてぇ」
急ぎ自分の服を探し、身分証などが揃っているか確認する。
「とんでもねぇ目にあったな」
……けど、初めて男とやったにも関わらず、ケツでイくまであきらめないオレの根性を褒めたい。
そうだ。あの薬……。
土産に何本かもらって帰ろうと、箱をあさった。
……あれ?これ。
半分フェイクだな。
オレが飲まされたのと、ニオイが違う。
……そういえば最初ナジュールに口移しされたのと、二本目にオレが口移ししたのも味が違ったような。
最初のあの味……知ってるな。
……なんだっけ。
まあいい。とりあえず、薬を二、三本いただいて……と。
「じゃあな、気持ち良かったぜ。チンコランキングは一位ベッティ、二位は同率でケイヤとナジュール、最下位はジョミだ。ヌーベルの順位はナジュールに聞いてくれ!」
高いびきの盗賊たちにサッと手を振り、オレは洞窟を出た。
外はもう真っ暗だ。
けど、川と尾根の位置関係は頭に入っているからどうにかなるだろう。
朝までに補給隊に合流しねぇと。
川沿いをしばらく歩くと、流れが緩やかな場所に出た。
ここなら暗闇でも安全に水浴びできる。
体を清めて少し歩くと、遠くの草原にようやく補給部隊の明かりが見えた。
「ぁっっ!アレ、香味オイルだ!」
補給隊を見て思い出した。
最初に飲まされたのは、ほんのり辛味のある隣国産の香味オイルだ。
奴らに襲われた商人は、上モノの香味オイルの瓶に媚薬の瓶を紛れ込ませ密輸していたのか。
しまったなぁ。
オイルももらって帰れば調理担当が喜んだだろうに。
でも……あれ?
いや、うん、うん。
そう、そう。
たしかに、香味オイルををケツに塗られ、飲まされれば、川につけられて凍えてしまった体がカッカあったまるのは当然だろう。
それに二本目は本物の媚薬だったんだから、ケイヤがアンアンなってたのもわかる。
けど、ナジュールは最初香味オイルだけであんなアンアン乱れヨガってたってことだよな……。
オレのケツが気持いいとか言って半泣きだった。奴が本物の媚薬を使ったのはそれより後だ。
うーん、これはアイツが根っからの淫乱なのか、それとも。
けど、あの香味オイルもカッカ、ムズムズして媚薬として優秀かもしれない。
……あれを媚薬として売るのも……アリか?
媚薬としてなら通常の十倍の値でも売れる……。
まあ、なんにしろナジュールに突っ込めなかったのだけは心残りだな。
あの野郎、最初オレの腹をボコボコと蹴りやがって。
仕返しに寝込み襲ってケツの奥にチンコガンガンぶつけてやりゃ良かった。
万一また会うことがあったら、奴の男の味を覚えたスケベなケツ穴をグチョグチョにハメ倒してやる。
◇
部隊に合流したオレは、国境沿いの小競り合いを終え、王都デンハーに戻った。
しばらく出動もなく、ただ訓練をするだけの日が続く。
オレは書類仕事は少ないが、代わりに特別訓練を押し付けられるので、結構忙しい。
訓練場から歩いて帰っていると、市民街と宮殿地区を隔てる門で、子供が門兵に話しかけようとして話しかけられず、ウロウロしていた。
んん?……あれは。
「ヌーベル!ここで何してるんだ」
ヌーベルはオレを見とめた途端、嬉しそうに駆け寄ってきて、寸前で思い返して逃げ出した。
けど、オレが逃すわけがない。
「おい、おい、なに逃げてんだよ。他の奴らは?一緒か?」
「………」
首にガッチリ腕を回して頭をぐりぐりとなでた。
ヌーベルは無言だが、チラチラと何度も同じ方向を見ている。
きっとあの建物の向こうに奴らがいるんだろう。
「あ、そういえば、お前、父ちゃんがいるって言ってたな。もしかして父ちゃんも盗賊で、捕まってたりするのか?」
「…………」
図星だったのだろう。ギュッと口が引き結ばれた。
「大丈夫だよ。お前はまだガキだから残党狩りなんかされねぇって。父ちゃんに面会したいんだろ?オレが申請してやろっか?」
「えっ本当!?」
「普通に申請すれば、面会するまで何日もかかるけど、オレが申請すれば、すぐに会わせてやれるぞ。こう見えて、ちょっとだけ偉いからな」
「っっっっありがとう!マジで、ありがとう!!!!本当はおれ、最初からアンタにお願いしたらって言ってたんだ。でもみんなが絶対酷い目にあわされるからダメだって……!」
ヌーベルがぴょんぴょんと跳ねてオレの腕にしがみつく。
「でもお前だけだぞ。他の奴らは間違いなく捕まるからな」
「うん!わかってる!」
当たり前のように奴らをかばう自分が不思議だ。
オレを拉致りやがった盗賊だが、肌を合わせて情が湧いたのか、とっ捕まえてやろうなんて気にはなれなかった。
面会申請を出し、監獄へ案内する。
ヌーベルはなんと盗賊の首領の息子だった。
「みんながね、地方の都市に潜伏して父ちゃんの出所を待つか、多少の分け前をもらって足を洗うか話し合ってるんだけど、決まらないんだ。だから、指示をもらいたいんだって」
面会にオレが同席しているにも関わらず、ヌーベルは堂々とこんなことを言い出した。
オレが奴らを捕まえる側の人間だってのをすっかり忘れてる様子だ。
「………」
当然首領はオレを警戒し無言。
いつもとは様子が違う父親を不安に思ったのか、ヌーベルが涙目になってしまった。
「……オレが口出すことでもねぇが、隠したブツのありかを知りながら奪いもせず、判断をボスにゆだねるなんていじらしい部下だと思うぜ。なあ、テメェが出てくるのに何年かかるかわかってんだろ?こいつはとっくに大人になって、きっと奴らは爺さんだ。足を洗わせてやれよ」
「…………」
首領は無表情のまま立ち上がった。
「………ヌーベル。ここにはもう来るな。それから……ホーンカッツの分は、やる」
「え……父ちゃん!なんでもう来ちゃダメなの?父ちゃん!」
部屋を出て行く柵の向こうの父親に、ヌーベルが必死に手を伸ばす。
「ヌーベル、足を洗うことを許してくれたってことだ。ホーンカッツって街にも何か隠してるんだろ。そこら辺は奴らに聞け」
「え、本当に?」
「オレにはそう聞こえた。ケイヤとナジュールには父ちゃんの言葉通りに伝えればいい」
「……うん」
「ヌーベル、お前の父ちゃんが言った『ここにはもう来るな』ってのは、お前にもう会いたくないって意味じゃねぇよ。こんな暗い監獄なんか無縁の場所で、真っ当に生きて、父ちゃんが帰ってきたら、大人になった立派な姿で迎えてやれ」
「……うん!」
市民街に戻ると、ヌーベルはオレに礼を言って、大きく手を振りながら駆け出していった。
多分その先に奴らがいるんだろう。
フッと笑いが漏れた。
とんでもない出会いで、とんでもないことになったが、なぜか憎みきれない奴らだったな。
市民街に背を向け、門をくぐると宮殿地区の綺麗な石畳を踏んで自宅へ向かう。
「達者に暮らせよ」
オレは男たちの再出発後の人生が、少しでも良いものとなるよう、王都の空に祈った。
◇
「っあーー!やっと会えたぁ!」
あれから一ヶ月後、なぜかヌーベルが市民街と宮殿地区を隔てる門のそばで待っていた。
……オレ、毎日ここを通るわけじゃないんだけどな。
「どうした……お前!」
「ケイヤがね、アンタに養ってもらえって。子供に変なこと教えたんだから責任取れとか言ってた。でもね、ケイヤとナジュールとはヤッたけど、アンタとは一回もしてないのに、変な話だよな」
プッと頬を膨らませながらも、スルッと腕を組んでくる。
「……お前もか……」
「え……『お前もか』って、何?」
「先週……『盗賊から足を洗うつもりはなかったのに、辞めさせられた。でも一人でいたら絶対また盗賊に戻るから、責任取れ』とか言って、ベッティが押しかけてきてな。いまウチで下男をしてる」
「へぇ!そうなんだ!ジョミも辞めたくなかったみたいで『あのおっさんのせいだ』って言ってたから、もしかしたら訪ねて来るかも」
「はぁ!?」
「あと、ケイヤもおれがアンタに虐待されずに面倒見てもらえるか、コッソリ見に来るって言ってた」
「だったらオレのとこなんかに寄越すなよ。……ナジュールは?」
「いま、あそこの店で買い物のフリして様子見てくれてる」
「………そんな心配なら自分で面倒見りゃいいだろうに」
「んー。でも、王都に住んでちょくちょく会いに来てくれるって……あ、これ言うなって言われてたんだった」
ヌーベルの荷物は小さなカバン一つ。
だけど、服の下には高価そうな宝石をいくつか隠すように身につけていた。
これを売れば、しばらくは食うに困らないだろうに。
それでもあの二人がオレにヌーベルの世話を押しつけたのは、この子にカタギの暮らしを教えてやりたいって想いがあってのことなんだろう。
「はぁ……。残念ながら、お前一人くらいなんとでもなるんだよな……。しゃあねぇ。ついてこい!」
「やったぁ!」
子供らしくぴょんぴょんと飛び跳ねついて来る。
一人暮らしには広いオレの屋敷は、使用人はみな通いで、ベッティに居つかれてもまだまだ部屋が余っていた。
……このガキには教師でもつけて、学校に入れるくらいの学力をつけさせたほうがいいのかな。
「……あ、念のため言っとくが、コッソリ様子を見に来たケイヤやナジュールを自分の部屋に連れ込んで犯すのはナシだからな?」
「へっ!? なんでっ!?」
「おい、おい。なんでじゃねぇよ、ヤる気満々かよ」
「えー。あれから二人とも、全然ヤらせてくれなくってさ。でももう二人はおれのボスでもホゴシャでもなくなるから言うこと聞かなくていいだろ。ケイヤなんて夜に瓶をじーっと見て顔を赤くしてたしさ、絶対抱いて欲しがってるよ?」
そう言ってポケットからさっと小瓶を取り出した。
ソレ、常に携帯してんのかよ。
「あのな、家主はオレ。つまり、オレがボスだ。勝手したら許さない」
「あ、そっか!はい!ちゃんと許可もらう!」
「………あ〜ん〜?うん、それなら……?」
オレ、そういう意味でダメって言ったんだっけ?
「っていうか、アンタも一緒の方が二人も絶対喜ぶ!えっとね、これも言うなって言われてたけど、おれがアンタに面倒見てもらえることになったら、そのままナジュールが家までつけて来て、夜に一度おれの様子をコッソリ見に来てくれるって言ってた」
「ふぅん。じゃあ、つけて来やすいように歩いた方がいいんだな」
「ふふふっ!さっそく今晩ヤれるね!ナジュール喜ぶよ!」
「あー???うーん……」
最近忙しくて、家に帰ってもすぐ寝るだけで、すっかりご無沙汰だったんだよな。
押し掛け下男のベッティの顔を見てムラムラはしたが、とにかく眠気が勝って……。
………。
あ、やべ。あん時のベッティとナジュールの痴態を思い出して、ちょっと勃ってきた。
「オレがうっかりナジュールに手を出す可能性はかなり高いが、ヌーベル、お前は参加不可だ」
「えっ!ずるい!アンタだけずるい!ベッティもいるんでしょ!ずるいぃい!」
「アンタじゃない。オレはクライストだ。あ、一応貴族だから『クライスト様』な」
まぁまぁの力で殴ってくるヌーベルを背後から拘束して、胸の前にぶら下げた。
「はふっっ。ふひゃひゃっ!クライスト様、もうチンコ勃ってる〜」
「ああ、オレはチンコもケツ穴も高性能だからな」
貴族の家の立ち並ぶ道を、薄汚れた子供をぶら下げ歩くというのはあまり外聞のいいもんじゃない。
……ああ。
しかもこんな時に限って、顔見知りに会ってしまった。
けど、馬車にも乗らずに歩いて移動する貴族なんてのは、みんな変り者だ。
オレに気付いたそいつは、おかしな状況を気にした素ぶりもなく、飄々と声をかけて来た。
上級貴族ってのは、騎士以外の軍人を人間とは思ってない。
門兵は壁の柄、兵士はゲームのコマだ。
序列意識も強い。オレみたいな下級貴族なんか平民に毛が生えたくらいに思ってる。
けどこの長身の青年は、騎士でもない下級貴族オレに普通に声をかけ、小汚い子供をぶら下げているのに、奇異の目で見るわけでもなく、たいして詮索もしない。
ああ、この微笑みと柔らかな雰囲気のせいで、余計なことをペラペラしゃべっちまいそうで怖いんだよ。
「へぇ、子供を引き取るのか。私の兄上は子供に特技や仕事を身につけさせるのが大得意なんだ。なにかあったらぜひ相談してくれ」
兄上……?
上級貴族の跡取り様にこのガキを躾させるって、正気の沙汰じゃねぇ。
「い、いや、別にコイツはソウイウ目的で引き取るわけじゃ……」
「ソウイウ……?? あ、ああ。えーっと、以前ソウイウ仕事をしていてそこそこ人気だった友人もいるから紹介しようか?」
清潔そのものの、のほほんとした顔でとんでも無いことを言い出す。
えーっと、つまりこの人、男娼と友達ってことか???
それだけでもまあまあぶっ飛んでるけど、この国じゃ男色は犯罪だぞ。
そんなヤバい秘密、オレなんかに言っちゃダメだろ……。
「い、いや、コイツにゃそんな仕事をさせるつもりはないから」
「うん!おれ、教えてもらわなくてもバッチリできるよ!」
「こら!こ、子供なもんで意味わからずにこういうこと言っちゃうんですよ」
「ああ、そういうこと、よくあるな。素直で可愛い子だなぁ」
ニコニコ笑って去っていったあの青年、王子とデキてるって噂があるんだよな……。
はぁっ……。
ちょっと前までなら、んなこと絶対あるわけねぇって一笑に付してたのに、今じゃ簡単に若い二人の組 んず解 れつを想像できてしまう。
……うん。ごつい盗賊たちの数倍はソソる。
今のオレなら、あの青年の生尻を見ただけでイケそうだ。
そしてシモの毛を嗅いでもう一発……。
顔見知りに会ってムラムラが吹き飛ぶかと思いきや、余計モンモンとするハメになるとは。
「ふぁぁ。あの人本物の貴族だよな!スッゲェ綺麗だ!クライスト様と大違い!」
「は、はぁ?顔だけならオレの方がイケてるだろ?」
「顔の作りなんか関係ないよ。あの人の方が圧倒的に綺麗だ。なあ、あれが気品ってやつ?おれ、ああいう人の相手が出来るんならソウイウ仕事してもいい!」
「出来るわけねーだろ!ああいう人は王子様のお相手を務めるんだよ」
……って、噂を真に受けすぎだ。もしそんな事すれば、流刑か死罪。あり得ない。
くだらない噂に振り回されるより、今後のことを考えないと。
これから……。
家に帰って、ベッティにヌーベルの部屋を用意してもらって。
夜にナジュールが来るって言ってたから、ベッティも交え今後の相談を……。
ナジュールとベッティと今後の……。
『……ぁぁっ早く!もっと、もっとくれよ……!』
ナジュールに媚薬だと嘘をついて単なるオイルを塗りたくったら、勘違いして前みたいに乱れまくるか試してみたいんだよなぁ……。
『ぅおっ!そんな絞めんな!もうイカせてくれよぉっ!』
ベッティの極上巨根も想像だけでヨダレが出そうだ。
……ヌーベルは。
『ふぁっ。はうっ!ナジュールがイクときビクビク食い締めてくるの、スゲェきもちぃぃ♡』
気を付けねぇと、目を離している隙にコッソリ参加してそうだな。
って、違う違う。
エロいコトより今後のこと。
「ヌーベル、晩飯なに食いたい」
「クライスト様」
「はぁ?テメェが喰われる側だろ?」
「えっっ!いいの?」
「よくねぇ!」
ぺシンとヌーベルの頭を叩きながら、自宅の門をくぐった。
「あ、クライスト様、さっきジョミから連絡があって、ここで世話に……って、ええっ!? ヌーベル?」
出迎えたベッティがヌーベルを見て目を丸くした。
「ジョミを居候させてもいいが、働き口は別に探させろ。これ以上使えない使用人の面倒はみきれん!」
「ふっ。居候は受け入れるのかよ。アンタ甘すぎだよ」
ヌーベルの目を盗んで、ベッティがオレの耳を優しく噛んだ。
仕事のできない押し掛け下男ベッティと、賢いが無学のエロガキヌーベル。輪をかけて役立たずなジョミが加わって、オレの周辺はなんだか賑やかになりそうだ。
部隊をまとめるのは苦手だけど、こいつらは自分勝手に動くからどうにかなるだろ。
ベッティのたくましい首をペロリと舐め返す。
「テメェらのせいでオレが軍をクビになったら、今度はお前がオレを食わせていってくれよ」
「任せろ!自慢のデカチンを、一生喰らわせてやるぜ」
………まあ、どうにかなるだろ。
《終》
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