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第5話~2人の枷~完結~

どのくらい眠っていたのだろうか・・・ 成は耳を撫でられていることに気が付き起きた。 うっすらと目を開けると琥白が 大きな耳の端を触っている。 とても穏やかな笑顔で自分の耳を触っているのが 可愛いと思う。 ほんわかとした気持ち・・・とでもいうのだろうか? これが、本で読んだことのある表現・・・ 愛しい・・・というのだろうか? 幼いころからほとんどの時間を一人で過ごしていた成は 誰も入る事のない書斎に閉じこもりありとあらゆる本を読んでいた。 が、獣人や、Ωと呼ばれる人種の事はなかったので 肝心なことは分からなかった。 そんな沢山の本の中、夢物語は暇つぶしに読んでいたが、理解できているのは 文であって、実際自分が体験することとは全然違う。 人と接する、性行為をする、人のぬくもりを知る。 これだけは本だけでは教えてくれない。 嬉しそうに自分の耳や髪を触っている琥白の事を 会ったばかりだが、大切に感じる。 これが本当に愛というものに変わるのかは分からない。 そんなことを考えていたが、どうしても声が聞きたくなり わざと耳を大きく動かしてみる。 驚いたようで一瞬身体は大きく動いた。 「耳がめずらしいのか?」 動かなくなった琥白に向かい聞いてみた。 「・・・おっ、起こした?」 「あぁ・・・お前が耳・・・触ってた・・・」 なんとなく恥ずかしくてそう答えると、嬉しそうにほほ笑む。 こうして、だれかと朝を迎えることが初めてで、逆にこちらが恥ずかしい。 「・・・いろいろ、お前の事を知りたい・・・お前は俺の事を知っている・・・と 言っていたが・・・おれはお前の事を知らない。なぜ知っている。俺は・・」 すると、琥白が、 「成は俺の事は知らない・・・もちろんこうして実際に逢った事は初めてだよ」 まっすぐに自分を見つめながらこちらを青い瞳に吸い込まれそうになる。 「じゃぁ、どうやって俺の事を知ったんだ・・・」 すると、琥白は 「昔から夢・・・を見てた。こうして成と一緒にいる夢・・・」 「夢?だと?」 「うん、夢だよ。昔から見てた。でもね、見てた夢は今の成なんだ」 「今の俺?どういうことだ」 「夢を見てたのは俺がもっと小さかったんだ。10歳くらいかな?」 「・・・お前・・・今何歳なんだ?」 成が見た感じでは20歳いったかいってないか?だが、自分より年下に見えていた。 「・・・俺は・・・25歳超えてると思う・・」 おかしなことを言う琥白 「・・・と思う?とはどういう事だ?」 「だよね。おかしいよね・・・自分の年齢は分からないなんて・・・」 自分の年齢が曖昧などは不思議なことでしかない。 「俺ね・・・作られたΩなんだ・・・」 「作られたΩ?どういうことだ?」 言っていることが分からなくなり問いただす。 「成が俺を助けてくれた時に沢山の男がいただろ?」 「あぁ、だが、あれは人ではないな、多分獣人に近い感じがした」 「そう、彼らも作られた獣人なんだよ。っても、獣人の要素がある感じだね・・・」 「俺みたいなのか?」 「似てはいるが基本的に違うよ」 そう答える琥白の指はふさふさの髪をなでている。 成も半獣人であるが容姿がまるで違う。 獣の耳に尾があるが、彼らにはなかった。 成は生粋の獣人の血を受け継いでいる。 だが彼らは途中で獣人の要素を身体に取り入れている。 そこが根本的に違う。 「そう、彼らは元は人間なんだ。成のように、獣人の要素は外見にはない」 「そんな人間はいるはずがない」 「そう、居るはずないよ。彼らは作られた人間なんだ。獣人でもなく、人間でもない。彼らは俺たちの監視役みたいな感じなんだ」 悲しげな顔で答える琥白 実際、ほとんど他の人間とも獣人とも接触がなかった成にはよくわからないが 琥白が普通のΩではない事はなんとなく理解は出来る。 「じゃぁ、お前はなんなんだ・・・お前は・・・」 「俺は・・・成に逢うためにこの世に生み出されたΩであり、番だよ・・・俺はそう思ってる」 そう答える琥白の瞳は真剣だった。 だがすでに、成は琥白の首にしっかりと自分の証をつけている。 今更嫌だとは言えないが、言う気もない。 琥白が嘘を言っているとも思えない。 「俺はある実験の施設から逃げ出してきたんだ・・・」 「逃げ出してきた?」 「俺は、俺と・・・同じようなΩが沢山いた・・でもみんなあの施設からは 出たくないと言ってた・・・Ωだと外世界では子供だけ産まされたり、性欲処理の道具にされるのが普通の世の中だから安全に過ごしていたかったんだと思う。幸せなΩはいるとは思うけど・・・」 「そうなのか?・・・Ωはそんな扱いなのか?」 「そうだと思う・・・俺も全部はしらないし・・・」 人と接触のなかった成にはまるで未知の事だ。 こんな、自分の傍で暮らさなくてもという考えも少しあった。 「それでも、琥白は安全に過ごす施設でも・・・良かったんじゃ・・・」 言葉を最後まで言わせてもらえず遮られた。 「そんなことない!昔から夢みてて、でもその夢は凄い現実的で絶対成はいる!とわかってたんだ。確証なんてないけど、でも本能で分かってた。俺は成に逢うために生きていたんだ。だから俺の事を認めて!俺はずっと成に逢うために生きてきたんだ!」 「・・・琥白・・・」 「成、俺は実験で生まれたΩなんだ・・・だから他のΩとは少し容姿も違う。だから年齢とかも曖昧なんだ・・・はっきりしないんだ・・・物心ついたこんな俺はいや?嫌いになる?」 急に不安げな顔になり、成に抱き着いた。 出会って数日・・・でもこうして琥白が傍に居る事は嫌ではない。 むしろ、安心すらしている。 だから、思うことを素直に伝えた。 「俺は・・半獣人で一人ものだ。ここにいる限り、不自由と感じるかもしれない。琥白が今まで琥白が生活していたであろう環境には程遠いと思う。それでもお前はここに居たいと願うのか?俺と一緒にいることで嫌になるかと思うこともあると思う。それでもお前はここにいてくれるのか?お前の方が俺の事を嫌いにならないのか?」 成は素直に質問してみた。 きっと、ここで一緒に住むということは不憫だと思う。 住むところ、寝るところがあるだけで、便利だと思うことはあまりないと思う。 自分は半獣人だから、ある程度の環境には対応できるが琥白はどうなのだろう・・・ 細い身体でか弱い人間で・・・そんな不安なことを考えていたが、琥白は違った。 「俺は、成に逢うために生まれてきたと思ってる。夢の中でしか見たことのない成の事を想って今まで生きてきた。そんな俺が、成の事を嫌いになんか、なるわけがない!傍にいたい!死ぬまでそばにいて、俺を縛り続けて、愛してくれるならどんなことも乗り越える事ができる!それではだめ?嫌?」 泣きながら言い返す琥白・・・ 成は生まれた時から疎まれ、邪魔にされ、存在すら認めてもらうことはなかった。 そんな自分の傍に居たいと願う琥白をいらないなんて言わない。 もし、琥白を取り戻しにきた奴らがいたら、きっと食い殺すことなど簡単に出来ると思う。 「俺は・・・こうして、お前と出会ったことでどうなるのかわからない。半獣人のままなのかそれとも獣人になるのか・・・お前と出会えたことで今まで、経験のなかったことが自分には起きた。これからどうなるかは分からない」 今の不安を素直に言葉にする。 「・・・俺は・・・それでもいい。逆に成の方が俺の事を知ったら嫌になるかもしれない。でも、でもね、俺が・・・発情期に入ったりしたら・・・成は嫌になるかもしれない」 背中に回した細い腕に力が入る。 なぜか、嬉しくなって、そっと抱きしめる。 「なら、そうなればお前が満足するまで俺が奪いつくしてやる。嫌だといっても離さない。それでもお前はいいのか?逆に俺が発情期に入ったらお前は嫌になるのか?」 質問仕返した。 「嫌にならない、なるわけがない!成が発情したら俺を壊れるまで抱き尽くせばいい。俺はそれでいい・・・だから・・・俺と生きて・・・」 必死に答える琥白をみていて何かがこみ上げる。 流れる涙を思わず舐めてしまう。 ・・・甘い・・・自分の事で泣いてくれることが嬉しい。 「なら、ここにいてくれ。ここにいて、俺と生きてくれ・・・俺はお前しか 知らない。だけど、お前しかいらない。誰かがお前を奪いに来たのなら俺が命をかけて守っててやる。お前が死んだらお前の後を追ってやる。だから、俺を一人にするな」 驚いている琥白・・・が、その後、嬉しそうに 「俺、ここにいたい。成と生きたい。成は俺のものだ。だからこの先誰にもあげない。だから成も俺を離したりしないで・・・俺を縛り付けて・・・俺を・・・守って、愛して」 お互いが求めあう。 出会ったばかりだが、運命の鎖が2人を縛る。 この鎖が枷となる。 これから先なにがあるのか、どうなるのかわからない。 俺は生まれて初めて必要とされている、生きる意味を見つけた。 琥白は俺のモノだ。 俺は琥白のモノだ。 運命にだって、邪魔はさせない。 「琥白・・・俺の琥白・・・」 再び身体の奥から熱いものがこみ上げてくる。 白い肌に噛みつき舐める。食むようなキスをして自分の匂いをつけていく。 「あっ・・・成・・・俺の・・・成・・・俺の・・・番・・・」 心地よい声が聴こえる。 やっと見つけた・・・俺の、俺だけの番・・・ 離しはしない。 キスをしながら見つめながらこう言った。 「お前が、俺が、運命の番だ・・・」 成は心の中で想う・・・お前は俺の枷となる・・・ いつ、収まるかわからない欲情に流されながら、 成は琥白を愛したのだった。 これからどうなるのかなんてわからない。 今はお互いを求めあう。 どうなるのか・・・ どうするのか・・・ 運命のいたずらがあるのか・・・ それはもう誰にも分らない。

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