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第7話

「エイト、エイト起きて」  遠くから声が聞こえる。  これは会ったばかりの、でも昔から知っているような馴染みのある声だ。  その心地良さに、当然のように瞼は再び重くなる。 「これを飲まないと……」  呟きとともに上半身を持ち上げられ、口を塞がれた。生ぬるい苦味が喉を通る。 「んん!!んー!」  反射的に吐き出しそうになったが、繋がっている唇がそれを許さない。少しの攻防ののち、エイトは飲み干した。 「ゴホッゴホッ……これなに?!」  ようやく離れた唇の主を睨みつける。当の本人は手にしたタオルでニコニコとエイトの口端から零れた液体を拭った。 「何って、経口避妊薬。途中にも何回か飲ませたから大丈夫だと思うけど」 「あ……あぁ、あり……がと」  つがいの契約を結んでヒートが治まるまで丸3日。本能に任せてブレッドを欲したエイトの記憶は、うなじを噛まれてから曖昧だった。  子供はまだいらないと言っていたのに避妊をブレッド任せにしてしまった。のみならず睨みつけてしまった。  落ち込んで固まるエイトを、横に座ったブレッドが優しく抱き寄せて頭の寝癖を弄りまわしている。 「あの、なにを……?」 「確か、ゴリラ族は髪の毛を整え合うのが親愛の証し、じゃなかったっけ?」  ヒートは治まったのに、ブレッドの空気が甘い。  くふくふとエイトの頭に顔を埋めているが、余計に寝癖が酷くなっている気がする……。  と、そこへ電話の呼び出し音が鳴り響いた。 「私のだ」  邪魔をされたブレッドが表示を見て億劫そうに通話ボタンを押す。 「はい、ブレッドです」 『ブレッド君!!頼むから長期休暇をいきなり取るなんて止めてくれ~現場はなんとかなるが、書類仕事がわし一人じゃ手におえないんじゃ~!!』  電話口から署長の懇願する声が漏れでている。 「突然の休暇は申し訳ないですがね、常々私は休暇を取る、と言っていたはずです。なのに自分の書類仕事をガンガンに押し付けていたのは署長でしょう?確かに私はスタミナがありますがね、堪忍袋の緒もあるんですよ」  ブレッドの口調が刺々しい。向こうで変な声で唸る署長に、エイトは苦笑いだ。なんだか消防署で耳にした話と違う。  すると電話口を押さえたブレッドが苦々しくエイトに向き直る。 「せっかく結婚式とハネムーンの予定を半年分きっちり立てていたのだが、もう少し先延ばしでもかまわないだろうか?」 「そんなの当たり前だろ!僕だって、休暇とるのに園長先生と相談したりシフト調整しなきゃいけないから、勝手に決めないで!」  思わずエイトは叫んでいた。  一見なんでも卒無くこなしそうなブレッドは、所々どこか抜けている。 出会ったばかりでつがいになった二人だけど、これからお互いにダメなところを補い合いながら長い人生を共にするんだろうなぁ、と漠然とした期待と不安に胸を高鳴らせたエイトだった。   おわり

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