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第1話
人類は平等だ。天ハ人ノ上ニ人ヲ造ラズ 人ノ下ニ人ヲ造ラズ。一番高額な紙幣を飾る人が言うのだから間違いない。それでも、そんな理想をわざわざ声を大にして掲げなければいけないくらい、この世にはまだまだ差別と迫害が根強く残る。 なるべくならそんな渦には巻き込まれたくないと願うのは当然のことだ。
登校時刻を30分ほど遅れて、獣人と人間、二人の学ラン姿の学生が門をくぐった。
久し振りの登校は正直なところ面倒で、可能ならこのまま帰って寝たい。でも、中退が今後の人生で不利になることは火を見るよりも明らかだ。アキラは、華奢な造りの幼馴染の小さな手をギュッと握り締めた。
「教頭先生、約束通り日向公太郎を連れてきたよ」
小柄で童顔なせいで登校途中に怖い思いをし、不登校になっていた幼馴染を、もう一度学校へ戻そうと画策してきたアキラ。自身もこの十日間は学校を休むはめになったが、その甲斐あってコウタロウを学校に戻すことができたのだから、学校にはこの休みを無断欠席と扱わないよう配慮していただきたい。
「おお日向!
おはよう、元気そうでよかった。少し痩せたか?」
教頭は数か月ぶりに登校したコウタロウに親しげに声をかけるが、コウタロウはあからさまに目を反らす。予想通りのやり取りにアキラは苦笑する。
獣人も人間も混血も、一緒に暮らすこの街。個性は豊か、でも互いに完全に理解し合うのは難しい。同じ場所に詰め込まれれば当然のようにトラブルが起きる。それが嫌ならそれぞれの特性に合わせた街に移ればいいし、案外上手く適応できる人もいる。母親同士が大の仲良しで生まれる前からの幼馴染のコウタロウとは、互いの長所短所を生かして支え合うことが当たり前になっている。
見た目も体格も種族も違う獣人と人間が一緒に通うことができるこの学校は、かなり稀な存在だ。
久しぶりの登校。授業の真っ只中に教室に入っていくのはいくらなんでも目立ちすぎるだろう、との教頭の計らいで、相談室の応接セットに座らされ、熱いお茶を出された。湯気をあげる丸い湯呑みを手で包むと、しばらくぶりの電車通学で知らない間に強張っていたのか、肩から力が抜けていくのが分かった。
この部屋で「勝手に菓子でも喰って待っていろ」と放置されるのは、呼び出された生徒だけが知る細 やかな楽しみだ。
「やった! 肉! ビーフジャーキーがある。ラッキー」
アキラは迷わず一番大きな乾き物に手を伸ばした。
相談室のテーブルの上には、ジャーキー、するめ、チーカマ、木の実、豆、せんべい、焼き菓子、ポップコーン、ドライフルーツ、氷砂糖……と、様々な種族の生徒の為に用意された個包装の菓子が置かれていて、いかにもこの学校らしいと思った。
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