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第2話

 しばらくして、教頭が相談室に戻ってきた。 「うちの学校は特にいろんな連中が入り乱れているから、トラブルは正直なところ多い。できれば今度は出て来られなくなる前に教えてくれな、事後報告では何の手も打てないからな」  いじめ報告の手順が書かれたプリントをヒラヒラさせてテーブルに置く。 「肌の色や獣人・鳥人みたいに目に見えている違いなら、相性を考慮して予め手は打てる。だけど、毎年毎年、各学年に数人ははアルファだのオメガだの性徴が現れるだろ? あれはどうにもできないんだよな、トイレは男女にしか分けられないし、学校の取れる対応には限界がある。お前らの年頃は特にケンカっ早いからなぁ」  仲良しこよし、人類みな兄弟、と育てられてきた同級生たちも、髪の色、肌の色はみんな違うし、第二次性徴期を過ぎれば、雌雄に加え3つの繁殖特性が色濃く現れ、それぞれの得手不得手を思い知らされる。思春期は特に、フラストレーションを溜め込んだ輩がウヨウヨしている。 「となると、私立の学校の方が手厚いから、転校も視野に入れての対応になるんだ。中退も多いだろう?  (じゃ)れてるのか傷害事件なのか、見極めができなくて後手後手に回ってしまうのは先生としても歯痒くてなあ」 「先生、俺もそこまでは期待していないよ。雑多な環境の方がのびのびできて良いから、最初から県立(ここ)を選んでるんだからさ、気にしないで」  先生と対等な口振りでアキラが答える。他の生徒がこんな話し方をしたら一気に内申点に響きそうなものだが、アキラは日頃から生徒も教員も一目置くレベルの優等生。文武両道を絵にかいたような男だから赦されてしまう。 「それはそうと、お前の欠席の件、インフルエンザ罹患って事で処理できそうだぞ。周りには口裏合わせてくれな? 日向のはどうにもならない。勘弁してくれ」 「さすが教頭先生! ありがとうございます」  入学以来の無遅刻無欠席が守られた。優等生の立ち位置を死守したいアキラは、十日間の欠席を無かったことに出来て上機嫌だ。   「コウタロウ、せっかくの相談室だから菓子喰って行こうぜ。からかわれなくなるにはもっと身体を大きくした方がいい。カロリーの高そうなやつ……ほら、クルミがある! これ喰え!」  菓子鉢から食べきりサイズのナッツのパックを選び、ギザギザを裂いて開封してはコウタロウの目の前に並べる。子供の頃から口癖のように「心配すんな、俺がお前を守ってやるから」と言ってきたアキラが、広く育ったせっかくの肩幅を縮めて甲斐甲斐しく世話を焼くので、無言・無表情を決め込んだ筈のコウタロウの顔も心なしか緩む。  成長期もピークを過ぎ、長くなった手足を持て余すように脚を組み替えるアキラの仕草をコウタロウは横目で眺めた。アキラは人望が厚く、男も女も引き寄せてとにかくよくモテるので、一緒にいるコウタロウは嫌でも比較されてしまう。余計小柄に、よりひ弱に見られるし、勝手にヤキモチを妬かれて攻撃されたこともあった。  アキラといるせいで(こうむ)った今までの災難に辟易し、コウタロウは蜂蜜が掛かった甘そうなクルミを勢い良く口に放り込んだ。

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