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小さな命は明日への望み

伊達輝宗、政宗親子が率いる大軍に小浜城主定綱は、蘆名、岩城、畠山らの諸氏の援兵を得て抵抗を試みたものの、多勢に無勢。緒城砦は次から次と陥落していった。 なかでも酸鼻を極めたのは、小浜城の支城・小手森城の攻防戦だった。 戦により避難を余儀された地域住民を含め、城内には800人余りがいたと推察される。 伊達に内通するものも現れ、一夜で落城した小手森城。伊達勢は、籠城者全員を皆殺しにするという、いわえる総撫でをやってのけた。 【政宗記】にはその状況を淡々とこう伝えている。 『成実陣より火をかければ、おりしの風強しにて、方々へつきつけ、敵おもひのそとになれ。 本丸ともに落城して、斬首にと宣ひ、男女はいうに及ばず、牛馬の類も斬捨』 くろは丸腰で自らその惨状に飛び込んでいったのだ。 ゆうは涙を何度も手で拭い、祠に身を隠しただひたすらくろの帰りを待った。 やがて山が業火に包まれ。 『待つのじゃ』 いてもたってもいられず、飛び出そうとしたゆうを止めたのは水神様に仕えるやかしたちだった。 「離せ‼くろのところに‼」 泣き叫ぶゆうの体を、無数の白い手が掴み、必死でなだめ、引き止めた。 朝靄に辺り一面は深い霧が立ちこめていた。 ゆうは寒さに体を小さく丸め、寝ずにくろの帰りをただひたすら待ち続けていた。 さわさわ、ざわざわとあやかしたちがゆうの耳元に何かを伝えると、一瞬でゆうの顔が明るくなった。 やがて霧の中から1頭の馬を先頭に犬の群が現れた。みな血まみれで、足を怪我し引き摺るものもいた。 馬に股がっているのはくろ。 何かを大事そうに抱える腕は血がぽたぽたと滴り落ちていた。 「くろ‼」 ゆうはすぐに駆け寄った。 「怪我は?」 「俺には権現様がついている。それよりもこの子を頼む」 くろは馬から飛び降りると腕の中から臍の緒がついたままの嬰児をゆうに手渡した。 「伊達はまこと鬼じゃ。この子の母親は、ゆうが探していた雌蕊だ。腹を裂かれ殺された。最期までややを必死で守ながら息絶えた」 ゆうは血まみれの嬰児をいとおしそうに胸に抱き寄せ、静かに涙を流した。 小さな命は明日へと生きる希望。 この乱世を生き抜いてみせる。 そう固く誓って。

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