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小さな命は明日への望み
「ゆう、お前はここにいろ。水神様がお前を守ってくれる」
伊達の軍勢に見つからぬよう、川沿いをただひたすら北上し、山頂部分が尖っている山が見える場所に辿り着いたのは夕刻であった。
小さな祠の前でくろは、ゆうを背中から下ろした。
「私も行く」
「だめだ‼」
くろは首を大きく横に振った。
「何故だ?足手まといだからか?」
「そうじゃない‼」
くろは吐き捨てるように口にすると、片腕をゆうの肩に回しそっと抱き締めた。
『ゆう、そちの腹にはややが宿っている。だからこそ連れていくわけにはいかないのよ』
ゆうの耳に今は亡きの母の声が聞こえてきた。
「はは・・・うえ!?」
目をぱちぱちさせて、くろをじっと見詰めた。
「約束する。何があっても必ず戻ってくる」
くろの大きな手がゆうの腹をそっと擦った。
「お方様が、ゆうとややをきっと守ってくれる。俺を信じてくれ」
「くろ・・・」
はらはらとゆうの目に涙が溢れる。
くろは少し屈み、濡れているゆうの瞼に唇を押し付け、それから柔らかな唇に静かに重ねちゅっと軽く吸った。
煌々とした月明かりに照らされ、くろの姿は犬の姿に変幻した。
伊達の軍勢がぐるりと取り囲み、鼠一匹さえ見逃さない厳重な警護を掻い潜りながら、一人で小手森城へと向かった。
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