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-Epilogue-
一つの大きな宮殿の真ん中にある一番高い塔から見える景色は、活気に溢れた街並みと、そこを囲むようにして深い緑の木々が生え、それは国土を綺麗に一周している。
透き通る爽やかな風が体を包み込み、それを深く吸い込むと、大地の生命力を取り込める気がする。
それと同じくして、風に煽られたイヤリングがキン…と啼いた。
「またここにいたのか」
声がした方を振り返ると、呆れた顔をしたラスターがいた。
「好きなんだもん」
「体が冷えたら困るだろう」
ラスターが真剣な顔でルイの事を見つめている。
その視線はルイのお腹へと注がれた。
「心配性」
「油断は出来ないだろう」
「そうだけど、たまには息抜きも必要なんだよ?」
そう言ってルイは大きくなったお腹を優しく撫でた。
「そう言って放っておいたら何時間でもここにいるから言ってるんだ。それに、もういつ生まれてもいいって言われたんだろう?あまり一人になるんじゃない」
「分かってるよぉ」
ルイは軽く不貞腐れた顔で塔を降りて行く。ラスターはそれを見て慌ててルイの体を支えて歩いた。
「真面目に言ってるんだぞ」
「はいはい、分かってますよ」
塔を降りて宮殿内にある庭に出た。そこには彩り豊かな花が咲いていて、ルイは塔から見る景色の次にこの庭の花を眺めるのが好きだった。
花の柔らかな香りが風に乗って流れてくる。
それを感じるだけで凄く幸せだった。
ラスターの腕に抱かれ二人並んでその景色を見ていると、花壇の影から小さな獣の耳がひょっこりと現れた。
「ん?」
ラスターとルイは顔を見合わせて微笑むと、その耳が見える花壇へ歩み寄った。
影からそこを覗き込むと、いくつかの花を摘んで何かを作っている獣人の子供がいた。
「ルークス」
ルイが呼ぶとその子は振り返り満面の笑顔を見せた。
「ママ!」
そう言ってルイに抱きつくルークスを腕の中に抱きしめて頬にキスをする。
「こんなところで何をしてたんだ?」
ラスターが聞くと、ルークスは手に持っていた小さな花束を見せた。
「これ、ママにあげる!」
「わぁ、ありがとう!綺麗なお花だね」
ルークスから受け取った花束に鼻を寄せると、ふんわりとフルーツのように甘く、優しい香りがした。
ルイが「いい香り」と微笑むと、ルークスは照れた笑いを浮かべ、ルイの首にギュッと抱きついた。
「ルイ、ルークスも体を冷やしてはいけないから部屋に戻ろう」
ラスターに肩を抱かれ、ルイは頷いた。
「ママ、赤ちゃんにはいつ会えるの?」
「もうすぐ会えるよ」
「ルークスが良い子で待ってたらすぐだ」
ラスターは言いながらルークスの頭を撫でた。と言ったって、ルークスが良い子ではなかった事などない。いつも聞き分けがよく、ルイもラスターも手を焼いた事がない。
それどころか、200年の間生まれる事はなかった獣人と人間の子である事、二分されたそれぞれの国が一つになった事で生じた混乱に、ルークスの存在は良い意味で大きな影響を与えた。
どちらの国民にも愛され、国がまた一つになった象徴のように思われてきた。
そしてきっと、この子が愛され続ける限り、この国が地を分かつ事は二度とないのだろうと。
「ラスター」
「ん…どうした?」
不思議そうな顔でこちらを見下ろすラスターを、ルイは泪をいっぱいに溜めた瞳で見つめる。
「ありがとう、ルークスと出会わせてくれて…」
「それは俺のセリフだ。おまえが諦めないって決めたから、俺はルークスに会えたんだ。それに、この国が元の姿を取り戻したのも、すべてはルイの力だ。…感謝している」
優しい眼差しをしたラスターは、ルイの頬を伝う泪をペロッと舐めとる。
「ラスター…愛してる」
「…俺も、愛してる」
自然と体が引き合わされ、二人はそっと抱き合った。
「ねぇ、僕は?」
ルークスが二人の服の裾を引いて見上げてくる。それにルイとラスターは顔を見合わせて小さく笑った。
「もちろんルークスも、愛してるよ」
ルイとラスターの間で抱かれ、この国の小さな象徴は、とても幸せそうに笑った。
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