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難癖ばかりの獣達

「明日から多田野(ただの)は動物園に異動な」 「はい?」  突然、応接室に呼ばれたかと思ったら深刻な顔をして部長は言った。動物園と言うのは獣人課のことで、獣人しかいないことから影で動物園と呼ばれている。 「な、なんで僕がそんなところに……? 自分で言うのもなんですが、遅刻や無断欠席を一度もしたことありませんし、勤務中は至って真面目だったかと……」 「いや、あのね申し訳ないんだけど多田野くんしか適任者がいないと思うんだ。ここでの勤務態度なら向こうでも上手くやれるさ」 「ま、待って下さい……! じ、獣人ですよね?! 営業所どころか本社ですし、本社にだって友達どころか同期もいませんよ?」 「多田野君、このご時世に差別は良くないよ。なあに、二十四歳と若い多田野くんなら上手くやれるさ。それに人事異動の決済は回ってしまったし、君が何を言おうともう撤回はできない」  話は終わったと言わんばかりに部長はソファーから立ち上がる。未だ現実を受け止めきれないまま、多田野は頭を抱え込みソファーに座り込んでいた。 「ゆ、夢だと言ってくれ……」  応接室の扉が閉まっても多田野は俯いて落ち込んでいたが、しばらくするとお客さんが来るからと応接室から追い出されて自分の席に戻った。  パソコンに届いたメールを開けば人事異動のお知らせが。そこには、多田野の名前と獣人課の文字。何度見ても文字は変わらなくて、同期から心配、というより揶揄うような内容のメールが来ていた。 「冗談だと言ってくれ……入社二年目で異動なんてシャレにならん」  獣人課で働く獣人達は全員で六人。そのうちαは一人で他はβだった。獣人の種類は様々でヒョウにヤギ、クマにインコやトカゲ、カメ。群れを作らないように配慮がされているそうだが、個々に個性が溢れて手が付けられないのが現状である。 「多田野ーすごいところに配属されたな」 「松坂……」  背中をポンと叩いて肩を組んできたのは同僚の松坂。ニヤニヤと笑いながらパソコンのディスプレイに表示されている辞令を指差す。 「でもまぁ、多田野なら上手くやれるって。人に合わせるの上手いし、空気も読む。自分を出せないことで、多少ストレスになるかもしれないけど、そこは俺と飲みに行って発散しようぜ」  励ますように今度は背中を強く叩かれ多田野は笑ったが、その顔は引きつっていた。

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