2 / 23

難癖ばかりの獣達 2

***  一年しか職場で働いていなかったため、引き継ぐものも何もないので辞令が出されたその日に獣人課へ多田野は挨拶に行った。上司も一緒に来るかと思っていたが、一人で行けるだろうと言われ多田野は一人で本社に来た。  入社式と研修をした以来の本社訪問に緊張しながら本社ビルの中へと入れば、今度はいつどこで獣人とすれ違うのか恐怖で怯えながら進んで行く。  受付には人がおり、多田野は獣人じゃないと安心して挨拶をした。そして、獣人課が四階にあると教えてもらいエレベーターホールへと移動する。エレベーターが四階につき、意を決して閉じられたフロアのドアをノックして中に入った。  部屋に入ると目の前には受付台と左側には扉が開かれた応接室があった。そちらに目を奪われていると、奥からバタバタと羽が羽ばたく音が聞こえてくる。音がする方へ目を向けると、黄色の顔に緑色の身体をしたインコ鳥人がいた。  OLの制服を着たインコ鳥人は黒のしま模様が入った羽を羽ばたかせながら多田野に「おはようございます」と甲高く声をかけた。 「わ、お、おはよう、ございます」  多田野は初めて見る鳥人に驚きながら挨拶を返す。インコ鳥人は小柄で多田野より背は低い。つい多田野は足元から見上げるように観察したが、インコ鳥人は見られる視線に慣れているのか、ニコニコと微笑んでいた。 「今日付けでこちらで働くことになりました。多田野良輝(よしてる)です。よろしくお願いします」  お辞儀をして顔を上げればインコ鳥人は嬉しそうに黒いしま模様が入った羽を羽ばたかせた。その反動で床に落ちてた小さなホコリが羽ばたく羽の風圧でふわりと舞い上がる。 「あなたが多田野くんね、私は羽衣(はごろも)よ。この課では受付嬢をやっているの。これからよろしくね。中に案内するわ」  羽衣の後ろについて行き、中に入れば羽衣の他に獣人が三人いた。部屋の中はデスクが六つ、向かい合わせにニ列並んでいる。  一番手前には猫背でパソコンと向かい合っている茶色い毛並みの熊獣人。真ん中には丸眼鏡をかけたヤギ獣人。そして、一番偉い人が座る窓側に眼鏡をかけたトカゲ獣人が座り、多田野を細い目でジッと見ていた。  息がしにくいと感じるほど重苦しい雰囲気で多田野は迎え入れられ、喉が張り付きそうな乾き具合のなか挨拶をする。 「こ、この度、獣人課に異動となりました。多田野良輝です。至らぬところも多々ありますがよろしくお願い致します」  獣人達からぶつけられる野生の眼差しに耐えきれなくなり、目を合わせたくない多田野は九十度まで深く頭を下げた。

ともだちにシェアしよう!