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戸影部長の策略

 今日も戸影部長は溜息を吐きながら席に座る。一日の業務をそつなくこなし他の獣人達が帰ったあと、戸締まりをするために帰り支度を始めた。 「ふふふ、石冰くんに辞められたら困るからね」  多田野が異動になる数日前、一人の女性が獣人課で働いていた。豹賀は彼女と絡むのが好きで、彼女の仕事が終わるタイミングを合わせ、彼女が更衣室から出てくるのを耳を澄ませながら出待ちをし、そこから近くの最寄り駅まで一緒に帰ったりと仲睦まじかった。だが、彼女は人と結婚し夫の転勤で退職してしまう。  彼女がしていた業務は分担されたが、八割以上豹賀に引き継がれた。他の獣人達も豹賀の負担が大きくなったことを分かっていたが、下手に口を出して仕事を増やされては困ると口を噤んでいた。  その内、昼休みになってもご飯を食べようとせず昼寝を優先し始め、食べなくなった豹賀は日に日に痩せ細っていった。このままだと辞めかねないと思った戸影部長は総務課に交渉し、豹賀の癒やしになるような人物を斡旋してもらう。  その人物が多田野だった。  多田野は愛嬌のある人物で周りから嫌われていない。人間関係に問題なく独り身。条件的には合格だった。後は豹賀が多田野を受け入れるかどうか。多田野は初日から豹賀に気に入られ、戸影部長は安堵した。  予想外だったのは、実は多田野がΩで豹賀と多田野は結ばれ子を成したこと。本来なら夫婦は別の部署になるのが決まりだが、多田野以外に獣人課で働き続けそうな人物は社内に存在しなかった。  多田野の代わりをするために異動になった人は獣人を恐れて出社しない。出社しても獣人と合わず、精神を病み半年も経たず根を上げた。  多田野に人懐っこい豹賀は誰にでも懐かず、種族が違う獣人でも八木に対しては特に冷たい。多田野だけが特別だった。  それは端から見ても分かっていたので、多田野は産休に入り育休が終わって職場復帰した時は以前と同じである獣人課が約束される。 「まぁ、石冰くんが辞めないなら僕は有り難いからね。仕事を任せられるし」  舌をちょろりと出しながら笑う戸影部長。豹賀はαで仕事はできるし、年功序列を大事にするので戸影部長の言うことは聞く。そう簡単にαは見つからないし、βが何人入ってきたって使えなければ意味が無い。 「これからも頼りにしてるよ、多田野くん」 完

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