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9.俺の従弟はアクマで鬼畜な麗しの…?③(完)

 三月三十一日。その年のその日は日曜日で、世間のサラリーマンたちもその身体を休めている春の陽気に満ちた日である。 「それはこっち、あ、本棚はあっちの部屋です」  テキパキと引越し業者に指示をしている麗しの従弟を尻目、俺は一人悶々とまだ荷解きの終わっていないリビングのソファーに沈み込んで色んなことを考えていた。皐月くんと二人で住むこと、指輪をプレゼントされた事、大輔にも話はしたけれど大輔の反応は薄く『ふーん』と言う感じで『それでもまだ諦めねぇ』と勝気な瞳で先日大輔の部屋に連れ込まれたばかりの俺である。仕事で忙しい皐月くんにそのことはばれていないけれど、引っ越す前の両親には露呈してしまっていて、『浮気はよくない』と散々説教されたものだ。 (皐月くんのことは好きなんだけど、好きなんだけどでも……!)  優柔不断もここまで来ると立派なくらいだ。自分で言うのもなんだけどまだ俺は大輔をキッパリ断ち切れないでいる。だって仲の良い友達なのだ。気安く会える唯一の、と言っても良い。ただ少し、たまにセックスをするだけの仲なのだ。この前ベッドで『好き、好きだからぁっv』とかなんとか言わされた気がしないでも無いけれど、うん、とにかく俺は……。 「柳さん、サボってないで荷解きしてよね!」 「あっ、ごめん」 「ふふ、良いよ。今日の俺は気分が良いんだ。何せあなたと二人、やっと二人暮らし出来るんだから」 「う、うん。ソウデスネ」 「なんで片言? あ、業者さん、ベッドの組み立て終わりました?」  俺の浮気(?)のことは知らない皐月くんは、相変わらずテキパキと業者の方に指示を出している。 (知られたらまた、きっと酷いお仕置きをされるんだろうなぁ)  そんなこんなで夕刻になった今は、それぞれの私物もクローゼットに仕舞いおわってソファーで二人、並んでテレビの前に座っている。夕方の情報番組を何気なく眺めながら、(明日からまた、仕事か、)なんて考えている俺の頭を皐月くんは自分の肩にコテンと乗せて、甚く満足気に『ふふ』と笑みを零している。 「なかなか良い部屋が借りられたね、柳さん」 「え? ああ……うん、そうだね」 「これからはきがねなく、好きな時に好きな場所でセックスし放題だよv」 「そんなんばっかだな、皐月くんは……仕事、忙しいんじゃないの?」 「あなたを抱くくらいの余力は残して仕事するから、ヘーキヘーキ」  今や皐月くんはティーンズ向けの雑誌の表紙を飾るほどのモデルになっている。その皐月くんが従兄と一緒に暮らしていること、『そういう』仲なこと、パパラッチでもされたらどうするんだろうか。そう言う疑念も拭いきれないけれど、まあとりあえず大好きな可愛い(今となっては格好いい)従弟が幸せそうだから、やっぱり俺は皐月くんが幸せなのが嬉しいんだなぁ。なんて思ってはにかむのであった。 「ふぅ、引越しでちょっと疲れたね」 「えっ、何言ってるの柳さん。本番はこれからだよ?」 「本番って?」 「記念すべき新生活の一発目……どこでがいい? このソファーかベッドルームか、それともバスルーム???」 「げっ……本気?」 「『げっ』って酷いなぁ、俺はいつでもあなたに本気だよ。さぁ選んで、早く選ばないと今すぐここで襲うから」 「ううっ!?」  と、言った所で部屋のチャイムが鳴る。『ら、来客来客!』と言って立ち上がった俺を不満げにじと目で皐月くんが眺めている気配がするが、俺は一枚扉を越して、玄関扉にたどり着くと焦っていた事もあり、インターホンも確認しないで玄関扉を開けた。 「はーい、どちらさま……って、あれ?」 「よぉ東雲、片付けは済んだか?」 「大輔!」  と、友人の名を呼んだ俺の声に、皐月くんが凄い勢いで鬼の形相で、玄関までやってくる。 「鏑木さん! お前、なんでここに!?」 「ハッハ、このまえ飲んだ時、どっかの酔っ払いから住所と引越し日時を教えてもらったもんでな?」 「柳さん!?」 「えっ……えっ? えーと、そうだっけ???」 「ほら、引っ越し祝いにシャンパン持ってきたから、ちょっと飲ませろよ」 「駄目だっつうの! 俺達これから、お互いの愛を確かめあうところなんだよ!!」 「まだ夕方だぜ? 皐月はセッカチだなぁ。大体言っとくけど東雲は、まだ俺のことも切ってないからな」 「っっ柳さん!?」 「えーと、その、えーとまあ。大輔はとりあえず、上がってきなよ」 「おう」 「『おう』じゃねーよクソ男! 上がるな上がるな、あっ、ちょっと!!」 「皐月くん、せっかくお祝い持ってきてくれたんだから……ね?」  無意識ながらも恒例、甘えた瞳で俺は小首を傾げると、皐月くんが『ぐっ』と言葉を飲んで大輔を、やっと部屋に上がらせてくれる。ああ、助かった。大輔が来てくれたお陰で、疲れた身体でセックスしなくて済んだ。と、のほほんしている俺の頭は見当違いと言うやつで、未成年まで巻き込んで酔っ払ってはこのあと、初めての競いあうような激しい3Pセックスを体験する事になることに、俺はまだ気がついていないのであった。  おわり。

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