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9.俺の従弟はアクマで鬼畜な麗しの…?②

 そんな中。あっという間にまた春が近づいて、皐月くんが志望する高校へ合格し、中学校を卒業した際に、事件は起きた。  俺たち家族。俺の両親とおれ自身は、その日は仕事が入っていなかったと言う皐月くんに午後八時。リビングテーブルに集められては『話があります』と緊迫した空気の中にいた。 「伯父さん伯母さん、そして柳さんには、この二年間大変良くしていただいたと感謝しています」  真剣な瞳で皐月くんが言うから、大学生までは、と思っていた両親も俺も皐月くんが早くも『この家を出る』と言い出すのではとハラハラして、皐月くんの話を聞いていたのだが、皐月くんの『話』というのはもっと、もっともっと俺たちの度肝を抜くものであった。 「この通帳に、大体二百万。ろくな新車も持てないようなちっぽけな預金ですが、モデルの仕事を始めてから僕自身、一生懸命に貯めました」  ああやっぱり。このお金で独り立ちする、というんだ。父親は厳しい表情でそれを『否』としようとした。呑気な母親も同じく『否』と。 「皐月くん、あなたはまだ子供なんだから……」「単刀直入に言います」  柔らかな母親の言葉を遮って、皐月くんが急にその麗しくつややかな黒髪を、頭を下げて言い放ったのだ。 「伯父さん伯母さん。柳さんを、僕に下さい。柳さんと、僕を一緒に暮らさせてください」 「「「えっっ」」」  家族三人の声が揃った。それはだって予想外の台詞だったから。皆が皆、一番の子供を前におろおろワタワタしている内にも、皐月くんは真剣な秀麗な眼差しで家族一同を見やって、それから最後に俺をじっと見つめて、ハッキリと両親の前だっていうのに、その言葉を放って見せる。 「柳さん、愛しています。僕と一緒に、二人暮らしをしてくれませんか?」 「「「はっっ」」」  やっぱり家族三人の言葉が揃う。『愛しています』と、いったか? 夜にそう言う言葉を囁かれることは多々あったが、両親の前でそんなことを言われて俺は大混乱で大慌てで、『なっ、ななななな何を急に!?』と顔を真っ赤にして笑い事で誤魔化そうとしたけれど、向かいに座った皐月くんに、机の上の手を握られてビクッと肩を上げる。 「柳さん、誤魔化しても無駄だよ。僕達の関係くらい、伯父さん伯母さんは前々から気付いているし」 「え゛っ!!?」 「……ゴホン。まあ、お前達がそういう、その、良い関係なのはそりゃあ、父さんも母さんも薄々勘付いてはいたけれど」 「ぎゃー!!?」 「柳ってば、母さん達が分からないとでも思ってたの? 大体あなたたち、お風呂だって頻繁に一緒に入るじゃないの」 「ひいいー!!?」 「皐月くんがお前を好きなのだって、一目瞭然周知の事実ってやつだぞ、柳。だけれどまさか……二人暮らしをしたいだなんて」 「あっ……あうう、」  なるべく二人の両親にばれないようにと重ねていた皐月くんとの性行為などが、まさか前からバレバレだったなんて。恥ずかしくて、恥ずかしくて、俺は両手で顔を覆う。でも、良く考えれば結構俺も声をあげていた。皐月くんも容赦はしてくれなかった。仕方の無い事なのかも知れない。むしろ、今の今までは黙っていてくれた両親に感謝した方が良いのかも知れない。皐月くんは動揺している俺に可笑しそうに『ハハ』と笑って、立ち上がったと思ったら俺の席の横にきて、片足を跪いては俺の方に、小さなジュエリーボックスを差し出してきた。 「えっ」 「これ、柳さん……良く言う給料三ヶ月分ってやつ」  そこにはシンプルな、シルバーのブランド物の指輪がキラリと光っているではないか。皐月くんは今や俺を越した身長で、でも跪いているから俺よりも低い位置から、俺をじっと愛しげに見つめてくる。 「受けとって、くれるよね?」 「っ……ぁ、」  これは、俺、いわゆるプロポーズに近いものを、中学生の少年からされているのでは? その考えは大正解なのである。皐月くんは真摯に真っ直ぐに俺を見上げている、から、思わず隣りと斜め向かいの父親母親を見る。と、二人はなんとその瞳で『さあ、受け取れ息子よ』と訴えているではないか(血縁の阿吽である)。 (え、良いのこれ? なんていうか、犯罪じゃないのかな???)  嬉しいからと言うより恐怖で涙目になって俺は思うが、皐月くんは震えている俺に焦れて、彼本来の強引さで指輪をボックスから取って、俺の左手の薬指にきゅっと嵌めてきたから『ひっ』と失礼な声を俺はあげる。 「ふふ、受け取ってくれてありがとう。柳さん、四月から二人で住む部屋、明日にでも探しに行こうね?」 「えええ」  さっき君、『僕と一緒に、二人暮らしをしてくれませんか?』って聞いてたよね? 質問形だったよね??? なんでもう住むことに決まってるの? 俺の両親も何で、『まあ、良かったよかった』みたいなめでたしめでたしみたいな顔で頷いているんだ??? 俺の疑問は尽きないが、いつもの流され体質の俺である。『うあああ!?』と叫びながらも次の日には、皐月くんと並んで不動産会社の席で、新生活のための部屋を探しているのであった。

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