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9.俺の従弟はアクマで鬼畜な麗しの…?①
「皐月がモデルの仕事を始めた?」
「そうなんだよぉ」
俺『東雲 柳(二十三)』の麗しの従弟である皐月くんの停学処分がとけて暫くして、俺の知らない間に皐月くんが、俺の両親の許可を取って芸能プロダクションと契約をしていたことが分かった。季節は春が近づいてきて、皐月くんからの『飲み禁止令』もとけた三月であった。おまけに最近の皐月くんは声がわりと成長期が近いらしく、いつも喉をイガイガさせては仕事のために九時帰りなんかになったりして、更に言うと『体が軋んで痛い』という理由で俺とのセックス頻度が控えめになっている。
互いの会社の近くの飲み屋で、友人であり俺に片思いをしているらしい『鏑木 大輔』と共に気安い飲みの席を開いては、俺は軽く酔っ払って愚痴を零す。
「皐月くん、まだ中学生なのに! 夜、俺より帰りが遅いこともあるんだぞ!?」
「ふーん、契約早々売れっ子ってやつかよ。まああいつって、見た目『は』良いから向いてるんじゃねーの?」
「俺は心配だよ! 皐月くんってすっごく可愛いから、変な輩に目を付けられたり、子供なのに枕営業なんかをやらされたりとか考えちゃって!!」
「はっ。心配すんな東雲、それはありえねえ。皐月のあの気の強さと腕っ節だぜ?」
「むっ……大輔、皐月くんのことなんだと思ってるんだよー。皐月くんは俺の可愛い従弟なんだぞ!」
「その可愛い従弟に、数え切れないくらい抱かれて無茶されてるのはどこのどいつだ?」
「うっ」
「……突然芸能界に入ったりするあいつの考えは俺にはわかんねえけど、あいつはああ見えて、かなり一丁前だからな」
「でもっ」
「東雲、お前よりしっかりしてることは確かだって」
「なっ、酷いな大輔!! 俺の方が立派な大人だってーの! だから俺が、皐月くんを見ていてあげないと、」
「そういう過保護精神も、その内鬱陶しがられたりしてな」
「ええ……そうかな?」
大輔は最後のビールの一杯を飲み終えると早々に帰り支度をして、領収書を店員から受け取っては割り勘分の代金を用意しだす。難しげに黙って不満げに唇を尖らせている俺を見ると少し笑って、店員が去ったブース内で俺の頭を撫でてきた。
「さあ、今日も家まで送ってやるよ。皐月のやつ、今日は仕事は?」
「……今日も遅くなるかもって、」
「よっしゃ。じゃあ九時までに着けば、煩くならないで済むな」
「大輔……皐月くんのこと嫌いなのか?」
「好きとか嫌いとかじゃねーよ。そもそもあいつと俺はライバルってやつだし」
「……」
「そろそろ東雲、俺に惚れる準備は出来たか?」
「あっ……」
「冗談だよ、さ。帰るぞ」
大輔はそう笑っているが、かの日のカーセックス中の大輔の台詞が頭を過ぎってしまう。『頼むから、柳……好きだ。お前のこと、好きなんだ。だからもう、好きでもない男と寝るのは止せ』。大輔は本当に、前からずっと、今でも俺のことが好きらしい。暫く大輔とはセックスもしていないけれど、がっついてくるようなこともなくて時々忘れそうになる事実である。
「そういえばお前、皐月に俺の勤め先教えたことあるか?」
「ん? ああ……そういえば聞かれて答えたこと、あるような無いような」
「やっぱりな、」
「え、なにが?」
大輔の会社への悪戯FAXはかの日の一通だけで、(知らぬところで俺が皐月くんを宥めたために)それ以降続く事は無かったのだけれど、大輔もあのことで、社内で変な噂に悩まされているらしいのだ(俺には知らないことだ)。呑気に疑問符を浮かべている俺に大輔は微笑んで、また頭を撫でてきたと思ったら自宅前、路上でそのまま俺を引き寄せて、キスをしてきた。
「なっ……!?」
「今日はキスだけで勘弁してやる。おやすみ、」
「うう、おやすみ」
もうすぐ社会人生活二年目の、春がやってくる。
***
春が来て四月も過ぎると、皐月くんはモデルの仕事に加えて受験勉強などと、社会人である俺より断然忙しい生活を送っていた。しかし皐月くんが家で仕事の話をすることはなく、ただ何となくチェックしてしまう皐月くんの専属雑誌を眺めては、毎日一緒にいるから気付きにくい、皐月くんの成長を目の当たりにしては『はぁ』と、『格好良く、なったなぁ』と俺は溜息をつくのだ。
そう、皐月くんは彼が中学三年生の夏に入って気がつけば、小柄で華奢だった少年の姿から変貌し、俺の身長もぐんっと追い抜いて、大人びた美青年、と言って良いぐらいには成長したのである。成長痛も終わって皐月くんは元気を取り戻して、忙しい合間に俺を抱くことがあるけれど、その際後ろから俺に覆い被さって耳元で囁いたり、いつかはまだ出来なかった騎乗位に挑戦したりと、益々俺を好き放題するようになっている。そして俺もそれを拒まない。同情はしないと決めた。決めた上で俺は、皐月くんを拒まないのだ。この頃になって俺は何となく、皐月くんのことを本当に一人の男として見てしまうようになっていた。見つめられては今まで『可愛いなぁ』と思っていたのが『どうしよう、格好良い』と思うようになってしまい、彼に抱かれる時も彼の気持ちよさそうに歪んだ表情に、きゅんとなんかしてみたりしている。
「皐月くん、まだ中学生なんだよね、」
「何それ、藪から棒に」
絶倫の皐月くんに抜かずの三発を決められて、ぐったり自分のベッドにうつ伏せている際に呟くと、大きくなった皐月くんが可笑しそうに喉を鳴らして上から擦り寄ってくる。その体重も、『う』と負荷を感じるほどにはなっており、『重いよ、皐月くん』と言うとすぐに、ベッドに腕を張ってその体重を退かしてくれた。
「随分大きくなったなぁ、と思って」
「ふふ、柳さんは可愛いかわいい美少年に、体格差で抱かれる方が好みだった?」
「失礼なこと言うなよ皐月くん。俺、俺は一人の男として、キミに抱かれるのを許してるんだから」
「うん。そうだね……愛してる」
「っ……」
「まだ、この言葉には返事はしてくれないんだね」
「ごっ、ごめん。俺、恋とか愛とかやっぱり良く分からなくて」
「大人の癖に、初心なんだから困ったなあ……まあ、最近は鏑木さんと『シて』ないみたいだし、別に良いよ」
「……」
それでも俺は、やっぱりじっくり時間をかけて、皐月くんと、同時に大輔に口説かれて絆されていくのである。
***
夏が過ぎ、秋が過ぎ、冬には昨年同様に皐月くんと初詣にいったりして一緒に過ごし、それでも変わったことはひとつ。皐月くんと、外を歩いていると声をかけられることが多くなった。初詣の時も皐月くんはすっかり長身になったその姿にマスクと伊達眼鏡をして、無防備にフツメンを晒した俺の横で、窮屈そうにお参りをしたのであった。
(皐月くん、すっかり有名人だなぁ)
誇らしいような、寂しいような気持ちで俺はとなりで微笑む。きっと格好良く大きく育ったまだ中学生の皐月くんに、それでも迫ってくる綺麗な女性は星の数ほどいるだろうに、皐月くんはどうしても俺に執着して離れなくて、何度も俺に『愛してる』と囁いてくる。
(本当に、どうして俺なんだろう)
最初はからかうつもりだったと言っていた。それが今では俺に首っ丈だと。俺の顔にも身体にも、飽きもせずに愛を囁いてくる。そんな皐月くんに俺は、洗面所で自身の顔を眺めては、どこまでも一重瞼のフツメンだなぁ、と考えることがある。人それぞれの好みって奴なんだろうか。でもそれが、俺が好みだと言う男が二人も(部長も入れたら三人も)いるのだ。なんだか申し訳なくて、今でも皐月くんの愛に本当には答えられずにいる自分が情け無くて……そうだ。俺は、結局世間体を気にしているのだ。従弟で年下で、同性で更に言うと有名人の皐月くんと、ごく普通のサラリーマンの俺。そして、有名企業に勤めるやり手イケメンサラリーマンの大輔。どちらとも俺は、釣りあう様な人間じゃない。心の奥底でそう言う気持ちがあるから、どんなに二人に愛を謳われても言葉を濁してばかりなのだ。
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