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8.アクマで鬼畜な麗しの従弟の暴走と企み③
「皐月くん。ただいま、俺だけど、」
「……んっ、柳さん? おかえり、入ってどうぞ」
今思えば、皐月くんの部屋には無駄なものが一切ない。クローゼットの中の洋服と、殆ど点かないテレビと教科書が並んだ本棚付きの机とベッド。よくとれば整理整頓されていているが、悪く取れば彼には趣味というものがないのである。中に入って『えっと、』と口ごもっていると、ベッドに寝転んでスマホをいじっていた皐月くんが起き上がって、『柳さん、こっち』と、自分の隣をポンポンと叩いて俺にそこに座るように促してくる。促されるままに座って、学校生活に問題があったらしい皐月くんを真っ直ぐに見て、それから何かフォローしようとした次の瞬間、俺はどさっとベッドに押し倒されていた。
「へっ」
「いやぁ、やっぱり我慢なんてするもんじゃないよね」
「えっ?」
「柳さん、僕の中学校での暴力事件のことで、僕と話にきたんでしょう?」
「あ、ま、まあ。そうだよ……」
「最近の僕、あなたを抱くのを我慢してたんだよね。知ってた?」
「え? え??? それが何……」
「僕があなたを好きなこと、セックス以外でも示せたらなぁって考えてたんだけど。オナ禁みたいなもので、苛々しちゃってさぁ」
「はっ!? それって!!?」
「うん、つまり……」
皐月くんがズボンのチャックを下ろして、なぜかもうビンビンに勃起している見た目にそぐわない性器を取り出した。ベッドに仰向けになった俺の頭の上に跨って腰を下ろして、疑問符を浮かべっぱなしの俺の口内に、無理矢理に勢い良く、その性器を押し込んできて、言う。
「くっ……ハハ。あなたを抱かない日々にストレスが溜まって、それを同級生に、遂ぶつけちゃったんだv」
「むぐっ! ん゛ぅっっ!!?」
「あーあ。こんなことになるんだったら、伯父さん伯母さんを悲しませるくらいだったら、我慢なんかするんじゃなかったよ」
「ん゛っっ!? んんっっ!!v」
俺の頭を固定して腰を振りながら、良い笑顔で皐月くんは一人喋っている。皐月くん、別に悩んでいたわけじゃなかったらしい。ただの欲求不満で苛々して、言わば俺のせいか? とにかく俺とセックスレスだったことが不幸して、同級生をその手にかけた。と、彼は言っているのだ。彼の細い腰は、性器はぐいぐい俺の喉奥を犯し続けているから、苦しくて苦しくて俺は涙目になる。
「ーーーーっっvv!!」
「んっ、はぁっv」
もう限界、とベッドをバンバン叩いてギブアップをしようとした時にやっと、結構早かった。我慢していただけある。皐月くんは俺の口内に、思いっきりに精液を放ってズルリと性器を抜き取ってくれた。可愛らしく髪をかきあげて、涙目で喉をイガイガさせている俺を愛しげに眺めては、体を屈めて俺の頬にキスしてくる。
「はー、気持ち良かったv 柳さんのオクチは上も下もやっぱり名器ってやつだなあ」
「ゴホッ、ゴホッッ!! ぅっ、ええ、さ、つきく……酷い、酷いってば。こんな急に、」
「急に? 何言ってるの柳さん。あなたは僕を慰めに来たんでしょう。だったら急じゃないよね?」
「えっ」
「……っていうかねえ柳さん、知ってた? 僕がこの家に来た初日に、あなたを襲った理由」
「はっ!?」
「日向でポカポカ温かく育ったあなたに同情されて、何となく苛々してだから、からかってやろうと思ったんだ」
「ええっっ、それって!!?」
「でも今はもう僕、あなたの身体に……ううんあなたの全部に首っ丈なわけ。解かるだろ、柳さん」
「くびっ……???」
「鏑木の野郎の真似して大人ぶって我慢しようとか、あいつの会社に嫌がらせしようとか、色々してみたけど結局はさ、」
「嫌がらせって……」
それは俺の知らないところでコンビニから、皐月くんが大輔の会社にFAXを送ったことであるが、言った通り俺には知らないことであって。皐月くんはぐいっと私服の上を脱ぎ捨てて、上半身裸、下は性器を出した状態になってまた、俺をベッドに押し付ける。
「ねえ、可哀想な僕には、あなたを抱くことが一番のクスリなんだってわかったんだ」
「さっ……、」
「だから黙って、柳さん、今日も僕にいっぱい抱かれてねv」
皐月くんはいいながら、俺のスーツを脱がしにかかっているけれど、俺は。
(いろんなことに、やっぱり皐月くんは傷ついてるんだ、)
そう、思い知らされた気がして、俺のスーツの上を完全に肌蹴させた皐月くんを、不意にぎゅうっと下から抱きしめて、言った。
「皐月くん。君は、可哀相なんかじゃない」
「え? 柳さん……ちょっと、ぎゅってしてくれるのは可愛いけど、脱がし辛いよ」
「俺、どこかでやっぱり、皐月くんに同情してたんだと思う。でもそれも、もう止めるから」
「……柳さん、」
「これからは、皐月くんのこと、ちゃんと一人の男の子として受け入れる、から……その」
「……」
照れて笑って大輔とのことは頭の外に忘れたままで、俺は皐月くんに口付ける。
「俺も、これでも結構君に抱かれるのを我慢してたんだよ? だから今日は、いっぱいセックスしようね」
「っっ!!」
きゅううん、と皐月くんの胸が締め付けられているのに俺は気がつかない。『な、なーんてねっ』と誤魔化して目を逸らした時にはもう遅く、再び今度は皐月くんから口付けられて、これからとにかくぐちゃぐちゃにされるであろう事を、それでも何となくは予想していた。
「ねえ柳さん、僕だって、躊躇も容赦もしないよ。あなたを一番、気持ち良くさせてみせる」
皐月くんはこれから暫く停学処分となる。大輔は会社で変な噂に悩まされる。俺は二人の男に板ばさみにされたままだ。問題は未だ山積みだけれど、何も解決していないけれど、それでも俺は久しぶりに、麗しの美少年に抱かれることが嬉しくて仕方なかったのである。
***
停学中の皐月くんが、暇を持て余して街をウロウロしていた時のことである。
「あ、ちょっと君っ、君が東雲皐月くんだろ!?」
「……ん?」
私服でいると女の子とも見まがうような麗しの皐月くんに、声をかけたのはいわゆるコッテコテの業界人というやつであった。つまり、芸能関係者。
「いやあ。停学中だって聞いたから、ここらへんウロウロしてたら会えるんじゃないかって思ってたんだよぉ」
「はあ? あなたは……?」
「ああ、私はこう言うものです。君、皐月くん、モデルの仕事に興味はないかい?」
「はあ?」
差し出された名刺には、皐月くんでも分かるくらいの有名芸能プロダクションの名前が刷ってあったのだ。皐月くんは少し考えて、ふっとこの前車を買ってやってきたライバル、鏑木大輔のことを思い出してはニヤァ、と笑った。
「ねえ、それって結構お金になる?」
俺の麗しの従弟の企みは、まだまだ尽きない様子である。
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