22 / 26

8.アクマで鬼畜な麗しの従弟の暴走と企み②

 正月が明けて、俺と大輔も仕事初めである。皐月くんはまだ冬休みだから朝、すっかり何事もなかったかのように笑顔で俺を見送ってくれて。でもしかし、 「暫くは、飲みにいくの禁止ね?」  可愛い笑顔でそう言い付けては、手を振って玄関の中に帰っていく。俺は満員電車に揺られて、会社に着くといつも通り……先日皐月くんとの玩具遊びがばれて、俺の口内に射精までしたセクハラ部長に『会いたかったよ』なんて尻を撫でられたりしたが、俺はビクッと肩を強張らせて女子のグループに逃げ込んで、なんとかその場その場で窮地を乗りきり社会人生活を送っていたのだが。 「鏑木さん、ちょっとお話が……」  大輔の勤める大企業の、事務の女子社員にデスクワークをしていた大輔が呼ばれて立ち上がる。大輔は今日もピッとした清潔感のあるスーツに香水を漂わせて、良く整った短髪で爽やかに『なんですか?』と、喫煙所の陰まで連れてこられてはその女子社員に聞いた。が、次にはピシッと顔を引きつらせることになる。 「これ、こんなFAXが、うちの部署に流れてきたんですが」 「FAX?」  前述通り、大輔は顔を引きつらせる。だって彼女の部署に流れてきたと言うFAXには、 『鏑木大輔は、仲の良い友達を強姦するホモ野郎』  そう、マジックで書き殴られていたのだから。当然そんなことをするのは一人だけだ。どうやって自分の勤め先を知ったのかは大輔には分からないことだが、どう考えてもこれは、皐月くんの仕業である。大輔が、黙って顔に暗い影を落としていると、女子社員が慌ててフォローをしてくれる。 「あっ! でも大丈夫です!! このFAX見たの、今の所たぶん私だけですから!!」 「……あの野郎」 「いっ、悪戯ですよねコレ? 鏑木さんって凄くモテるから、どこかの誰かが嫉妬してこんな、」 「君、」 「ハッ、ハイ!?」  次に顔を上げた大輔は、いつもの爽やかな表情で何も疚しいことのないようにしていたから、声を裏返した女子社員もホッとする。 「これからも、こう言う悪戯で迷惑かけるかも知れないけれど……騒ぎにしたくないから、他言無用でお願いしますね」 「はい……」  それどころか、誰にでもイケメンと言わしめる大輔の、優しい笑顔にぽうっとまでして、大輔は罪な男だ。また一人、脈もないのに健気な女の子を虜にするのであった。 *** 「おい、東雲」  あれから暫く、俺は皐月くんに抱かれていない。でも皐月くんは普通に俺を起こしにくるし、普通に俺の部屋に入り浸りもする。ただその先の行為がないというだけなのに俺は、何だかその不自然さにムズムズしては体の熱を持て余し、皐月くんが去って行った私室で一人で自慰したりする日々が続いた。そんな折、皐月くんの中学校の授業が始まって、俺には知らないことだが皐月くんが、いつも通りに昼の休み、一人裏庭で昼食を取っていた時に男子二人に絡まれる。 「……何?」 「まーたボッチ飯か? お前、男友達いないのかよ」 「関係ないだろ」 「それともそうやって、一人でいるところアピールして悲劇ぶってんのか? 両親を亡くした可哀想な僕ー、とかなんとか」 「お前ら、」  皐月くんが弁当をおいて芝生から立ち上がる。立ちあがったと思ったら麗しの御尊顔、ニッコリ笑って男子生徒二人をぽうっとさせて、何の前触れもなく、  ゴッ!!  と、男子生徒の内の一人を殴りつけて吹っ飛ばした。皐月くんは、見ために似合わず力がある。散々無理矢理されている俺だけは知っている。皐月くんは、そして言う。 「お前ら、喧嘩のコツを知ってるか」  俺と会話する時とは似ても似つかない口調で、どす黒いオーラを放って、芝生に倒れこんだ一人におろおろしているもう一人を、また思いっきり、今度は股間を蹴り上げる。 「ひとつ、躊躇しないこと」 「う゛っ!? ごはっ……、」  呻いて崩れ落ちる男子生徒を猶も足で踏みつけて、一度殴りかかられて血を流しながら『舐めやがって、』とか何とか言って立ちあがろうとした最初の一人の頭もまた、思いっきり踏みつける。 「ふたつ、容赦しないこと」 「い゛っっ!! あ゛っ……てぇ!! ちょ、やめっっ……」 「ねえ。この二つってさ、俺の父親から教わったんだけど」 「ぐっ、はっ……な、なんなんだ? なんなんだよ、東雲!!」  最後に顎を蹴りあげて、一人が昏倒したところで皐月くんは、笑ってもう一人に言ったのだ。 「この二つってセックスで、相手を気持ち良くさせるための条件と一緒だよねえ?」 「へっっ?」  歪んだ笑みで下品な事を言うまだ中学生の美少年に、暴力を振るわれているというのに思わず一人が頬を染めた。後、通りがかった教師に見つかるまで、皐月くんは倒れた二人を無視して目の前で昼の弁当を食べていたから、その教師から事情を聞かれて皐月くんは、金曜の夕方に俺の実家に、担任教諭と生活指導教諭により家庭訪問をされたのであった。 *** 「ただいまー」  皐月くんに言われた通り、大輔からの飲みの誘いは断っている俺は午後七時になってその金曜日、実家に帰ってきた。リビングに入ると深刻気な俺の両親が、ダイニングテーブルで向かい合って顔を突き合わせて座っていたから不思議に首を傾げる。 「ん、どうしたの?」 「……ああ、柳。おかえり」 「ただいま……ってか、なんだよ。なんかあった?」  厳かな声の父親に慄きながら、俺は鞄を置いて母親の隣に着席する。いつも穏やかで呑気な母親が、その目いっぱいに涙を溜めているからギョッとする。 「皐月くんのね、中学校の先生がお見えになったの」 「皐月くんの?」 「皐月くん、同級生にからかわれて、暴力をふるって病院送りにしたんだって」 「えっ……!?」 「からかわれること、それ自体は今までも日常茶飯事だったらしいの。私達、そんなこと、全然気づかなくて、」 「……」 「あのこ、家では明るくてとても良い子じゃない? 両親がいなくたって幸せに過ごさせてあげられてるって、私、思いあがってたみたいね」 「母さん、それは、」 「柳、あの子は一番柳に懐いてるから、悪いけれど様子を見てきて……話を聞いてあげてくれないか」  涙ぐんでいる母親に眉を上げて肩を落として、俺は皐月くんの学校生活を思う。最後に父親に言われた通りに俺はスーツのままで、皐月くんの様子を見に、彼の部屋を訪れたのであった。

ともだちにシェアしよう!