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8.アクマで鬼畜な麗しの従弟の暴走と企み①

 両親を亡くした麗しの美少年である従弟の『皐月』くんが、茶髪で一重の冴えないサラリーマンである俺『東雲 柳』の実家に暮らすようになってから、夏が過ぎ、秋が過ぎ、冬がやってきた。俺は当初、皐月くんの父親……俺の叔父の葬儀の際に久しぶりに皐月くんを見た時、実の所天使のようだと思ったのだ。が、しかし皐月くんのその本性はというと、性的な意味で、時には公共機関内で、時には玩具を使ってサラリーマンである年上の俺を弄びに弄びまくる、アクマで鬼畜な中学生だったのだった。  そして前回。大学時代のゼミ仲間で友人であり、俺に惚れているらしい『鏑木 大輔』と正月の星空ドライブに奥多摩にきて、大輔が元々計画していたらしいカーセックスを、その名の通り大輔の愛車の中でしてしまった。それも、大輔は今回コンドームを持ってきて座席にタオルを敷いて、中も外も汚さない準備万端だったというのに、雌スイッチの入った俺自らに誘惑されて、生の中出しセックスまで。ゴムありセックスの後に二回ほど、バックで中出しされてから二人は息を整えて、賢者モードに浸って冷静になっては『はぁ、は』と静かに息をしながらその身なりを整え始めていた。 (またやっちゃった……しかも俺、なななな、『生ちんぽ欲しい』とかなんとか滅茶苦茶言ったような、)  ジーンズは穿いたもののお尻の中には、自分がねだったから大輔の精液がたっぷり注がれたままだ。大輔は最初の正常位で俺の精液がべっとりついたセーターを軽くティッシュで拭い終えて、俺が服を全部纏ったのも確認すると、『じゃ、』と普段の表情に戻ってもぞもぞと身を捩りながら座っている俺の手をとった。 「この駐車場、公衆トイレあるからそこ行こうぜ」 「えっ、俺、トイレは大丈夫、」 「じゃねえだろ。ナカに注いだもん……はぁ、掻きださねえと」 「っ!!」  ビクッと肩を上げる。俺が言ったのだ。ゴムはやだ。生が良い。ケツ穴ずぽずぽしてv とかなんとか。途端顔を真っ赤にしている俺が可笑しいのか、大輔は『クク』と喉を鳴らして髪を撫ぜてくる。 「お前には本当に、スイッチってもんがあるよなあ」 「ごめんっ、本当にごめん! 俺、なんていうか滅茶苦茶言ったよな!? ハハ、」 「滅茶苦茶言ったのはお前だけど、そのお前を滅茶苦茶にしたのは俺だ。気にすんな、それに……」 「それに?」 「……滅茶苦茶エロくて、最高に可愛かったぜ、柳」  顔を寄せられ耳元で囁かれて、またしても俺は沸騰する。二人で車から出ていくと、近くでこの車の様子をデバガメしていたらしい学生グループの女子達が俺たち二人を見ては『きゃー』と声を上げているのを(車体を揺らしていた事など気がついていない)俺は不思議に思いながら、公衆トイレの個室に入って『手伝ってやろうか』とからかってくる大輔をあしらっては、一人手馴れたもので、完全にではないが軽く精液を掻き出して、ナカを洗った。 ***  帰り道は凄く長く感じて、二人は大体用がない時以外沈黙していて、何となく気まずい(と感じているのは俺だけなのかもだが)その空気に張り詰めている途中にやっと、俺は鞄を後部座席の下に落としたままであることに気がついた。その頃には流石に皐月くんからのラインと鬼電は止んでいたが、俺が身を捩って鞄を取って、午前十二時にスマートフォンの画面を起動すると、鬼のような数のメッセージと着信の数に『げっ』と、声をあげた。運転中の大輔が聞いてくる。 「どうした?」 「いや……皐月くんに連絡し忘れてたら、九時ごろだなコレ。鬼のように着信が……」 「ああ、あのガキか。遅くなったから心配だったんだろ」 「それにしてもこの数、ど、どうしよう。絶対怒ってる。もう日付超えてるし、俺、絶対帰るって約束したのに」 「これから帰るんだから問題ないんじゃねえの? ほら、もう高速降りるぞ」 「あっ、もうすぐだな。あと三十分くらい?」 「そのくらいだ」  本当にただドライブしてきたかのような会話だ。その空気にホッとして、しかし待ちうける皐月くんに慄いて、俺は口元をヒクつかせる。そんな内にも車は俺の実家に着いてしまい、静かな住宅街にエンジン音が鳴り響く中、なかなか車から降りる様子のない俺に、大輔がやさしく話しかけてくる。 「なあ、東雲。俺は、答えは急がないから」 「えっ、答え?」 「お前が、あのガキとの関係を完全に絶ち切る気になるまで、ずっと待ってる」 「あっ……」 「ついでに言うと、本当に俺に惚れてくれるまで、な?」 「うっ」  そこまで言うと大輔は運転席から降りて反対側に周り、助手席の扉を紳士的な仕草で開けてくれた。俺は焦ってシートベルトを外し、ボディバッグを背負って促されるまま車を降りる。大輔が扉を閉めて、それからちらっと見上げると、大輔と目が合った。目が合ったら顎を持ちあげられて、『っ、』と言葉を失っている内に口付けられそうになったけれどその瞬間、 「柳さんっ!!」  玄関扉の鍵と扉が開いて、凄い勢いでまだ私服姿の中学生、皐月くんが玄関から走ってやってきたのであった。おまけに、ぱっと顎から手を離して血相を変えた美少年の皐月くんに『よお』と手を上げた大輔に対して皐月くんが、 「っの、野郎が!!」  ガッ!! と、思い切りに利き腕を振りかぶって、殴りかかったのであった。驚いて固まっている俺の目の前、大輔は流石長身大人の男、ふっとばされたりはしなくてその場で少しよろけるだけして、俺が思うに業と皐月くんの拳を、避けなかったんだと感じた。一発大輔を殴ってもなお殺気立ってその場に立っている皐月くんの肩に、俺はハッとして両手を置く。 「皐月くんっ、暴力は駄目だって!」 「っ柳さんも柳さんだよ! こんな時間まで……帰ってくるって約束したのに、こんな色ボケ野郎に連れまわされたりして!!」 「皐月、色ボケ野郎とはなんだよ……チッ、口切れた」 「ふん、どうせ鏑木さん、柳さんを無理矢理に犯したんだろ? 柳さんは優柔不断の甘ちゃんだから、拒否できなかったんだろ!?」 「さっ、皐月くん。ここ、住宅街! 真夜中だから、声響くって!」  興奮している様子の皐月くんを、俺はぎゅうっと抱き絞めてあげて頭を撫ぜる。皐月くんは俺の仕草に少し表情を甘くして、しかし次にはまた、抱きしめられたままに大輔を指差して、今度は小声で強い口調で、言う。 「柳さん、まさかこの男のこと、好きだなんて言わないよね?」 「えっ……いや、それは、」 「柳さんの甘い所は大好きだけど、だからって『俺』以外に、好きでもない相手に抱かれて良いとは言ってない!」 「皐月、お前自爆してるぜ。柳は俺のことも、お前のことも『好き』なのかどうか解からないらしいからな」 「ちょ、大輔!」  皐月くんから身体を離して、大輔の方を向いて焦って注意する。しかし、指摘された皐月くんは毛を逆立てるように口元を切らした大輔をギッと睨み付けて、それから俺の腕にぎゅっと擦り寄ってきた。 「そんなことは解かってる! でもこれから、柳さんはじっくり時間をかけて『俺』のことを好きになるって決まってるんだよバァカ!!」 「はっ。そんなの決まってねえよ。時間制限がないのは俺もお前も一緒だ。こっちだって時間かけて、東雲を俺に惚れさせてみせるっつうの」 「このっ……!!」 「さ、皐月くん! 大輔も!! 大人げないぞ!?」 「「ふん、」」  示し合わせたように二人が鼻をならしてそっぽを向く。大輔が『じゃあ、今日はこの辺で帰るぜ』と言って車に乗り込んで、皐月くんが『早く帰れよ馬鹿野郎』なんて麗しい顔に似合わない罵声を浴びせたりしたが、無事に(?)大輔その人は、帰路に着いたのであった。大輔の車を見送って、俺は皐月くんの一人称の違いに気がつかないままで、ぎこちなく麗しの従弟に笑いかける。 「本当に、ごめんね皐月くん。俺、帰るって約束したのにこんなに遅くなって、連絡もしないで」 「……もう、良いよ。全部あの男のせいだから。それより早く、家の中に入ろう?」 「う、うん……ありがとう」  なにが『ありがとう』なのかわからないままで、俺達は温かい家の中へ、やっとのことで帰ってきたのであった。 「お風呂は沸いてる。身体、綺麗にしてきなよ。僕は、先に寝てるから」  意味深な皐月くんの言葉に表情を濁しながら、俺はいわれた通りに風呂に入った。今度は完全に、身体の中の精液を掻き出し洗い流して、湯船に顔半分まで浸かって俺は考える。 (俺は本当に、皐月くんのこと、大輔のこと、好きじゃないんだろうか) 『お前、皐月のことが好きなのか? あの中学生のことが?』 『やっ、やっv やぁあv イくっ、でるっ、せーえきでちゃうってぇv』 『なあ東雲、いや、柳……流されてるだけなら、同情してるだけならもう、あのガキに抱かれるのはやめろよ』 『あっv あっ!? どうじょっ? おれ、が、さつきく、にっっvv?』 『頼むから、柳……好きだ。お前のこと、好きなんだ。だからもう、好きでもない男と寝るのは止せ、よっ!!』  流されているだけなら。同情しているだけなら……確かに俺は、皐月くんを拒むべきなのかも知れない。それが彼の将来のためにもなると言うものだ。でも、 (それは、大輔も同じ……)  いつまでも俺なんかに執着させておいて、歳をとっては取り返しのつかないことにしてしまいそうで、それも恐い。 (っていうか俺、どっちかを選ばなきゃいけないのか?)  それもそれで疑問である。が、しかし、俺はどっちも失いたくない。それが本音だ。セックスすることで二人との関係が円滑に進むのならば、拒むことで二人を失うのならば、今のまま、流されるままでいるのも手ではある。 (でも皐月くん、凄く傷ついてた。それこそ、暴力なんかに傾くくらい、)  俺が友人とのセックスに溺れている間、皐月くんはどんな気持ちでいたのだろう。思うと胸がきゅうう、と絞め付けられた。

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