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3.『初桜-はつざくら- 』
生物部の部長副部長として二人で一年間観測を続けてきた桜の木は、このやっと咲き揃った花が散ったら後輩へと引き渡される。
毎日のように桜の記録を取りながら毎日のように見てきた部長の横顔をこうして見られるのも、あと少し。
「散ったら俺達の観測も終わりだね。」
「……次は何にする?」
「え?」
「二人でする、次の事。」
……それは、部長として、だろうな。
副部長としての正しい答え方は……
「じゃあ、水生生物とかやる?秋の役員引継ぎまでなら」
「そうじゃなくて!」
それきり部長は黙ってしまった。
桜に手を伸ばして、引っ込めて。
「……こんなに咲いてるのに……贈る為の一輪だって摘めないんだな。」
「……誰かに花を贈りたいの?」
こんなに近くにいたのに知らなかった。
部長には花を贈りたい人がいる。
……いるのか、そうか。
「お前、桜、好きだろ? 凄く熱心に見てた、この一年間。」
「俺? え、俺は……部長が桜を見てたから……」
「俺が?」
「あ……、その……」
桜から部長の視線が移る、俺の顔に。
「じゃあさ、今度は俺の観測する?」
部長の唇が近付く、俺の耳に。
「俺が花を贈りたいのは、お前、なんだけど。」
ぶわっと風が吹いて、俺の心に散らない桜が咲いた。
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