5 / 49

4.『金桜の宴』

この世を呑み込みそうな大きな満月に彩られ 毎年美しく妖艶に咲き誇る桜たち。 目の前にある景色はまるで常世だ。 穢れも不浄も覆い隠していつの間にか時が過ぎる。 「咲けよ咲けよと言うが人間は無関心だなぁ」 桜よ咲け。と言うだけで一番美しい時間には訪れない。 「いいじゃねぇか。旨い酒と美しい桜と満月。 こんなに粋な場所を無粋な人間に荒らされることはねぇさ」 屈強な男が笑う。 どこか土の匂いがする男は手酌で酒をあおる。 「……そうだな。それでもあと数十、数百年の内に荒らされるのさ」 どこか水の匂いがする細い目の優男が徳利を傾ける。 趣の違う男二人は桜の舞を見ながら笑いあう。 「そうか。じゃあ幾数世かけてやっと整ったこの場所も終いになるのか」 「さてね。人はどうするかわからないものだから」 目の前も空にも広がる桜は風と共に舞っている。 幻想的な世界に男二人。 盃になみなみ注いだ酒を楽しむ。 満月と桜に呑み込まれそうだ。 誰かが笑った。 題名【金桜の宴】

ともだちにシェアしよう!