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5.『桜二輪』
「なあ」
「んー?」
「あれ、覚えてるか、あれは……いつだったか」
「なんのことだ」
「あれだよ。ほら、シマがアホやって」
「シマはいつだってアホだった」
「だから、倉田が怒鳴っただろ、あれだよ」
「ああ、あれか」
「そうだ、あの冷静な倉田が真っ赤になって」
「そうだったな。そして……おまえが泣いてたな」
言葉と共に目を向けた先、写真に酒が半分になったコップを上げる。
「ああ、泣いてた」
こちらもコップを写真に向けて上げ、呷るように流し込む。
「おい、ほどほどにしろ」
言いつつ自分も一気に飲み干し、また酒を注ぐ。
「おまえにだけは言われたくない」
「お互い様だ」
「おい。……なあ、おまえはどう思う」
ククッと笑い、写真にコップを上げて見せる。
白菊に囲まれた、黒い枠の写真に。
「聞いたって、眉下げて笑うだけだろ、こいつは」
「違いない。おっと、ろうそくが……」
コップを置いて、腰を上げる。
「危ない危ない」
二人してのそのそ動き、短くなった蝋燭を取り替える。
酔いが回った足は頼りなく、二人はそのまま、そこに座り込んだ。
「一番最後まで残りそうな奴に、先越されちまったな」
同期の桜。
最後の二輪が、また酒を呷った。
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