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30.『桜の季節』

「くしゅん!」 ひらひらと舞い落ちるピンクの花びらをうっとり眺めていたのに、それに不似合いなくしゃみの連続音に思わず振り向いた。 「先輩、風邪ですか?」 「ちげぇ、花粉。俺、ホントこの季節、嫌いだわ……っしゅん!」 不躾に鼻をすする、先輩に苦笑して僕は桜を見上げた。初めて先輩に出会ったのは、やはりこの季節だったのに、酷い言い草だ。 「せっかくのデートなのに、台無し」 「だから、家でゲームでもしてようって言ったのに……」 「先輩来年上京しちゃうんじゃん。一緒に花見が出来るのなんて今年だけかもしれないのに、そんな事言うの?」 拗ねたように言った僕に先輩は苦笑するけど、僕は今を大事にしたいよ。 一陣の風が吹きぬけて桜の花びらがふわりと舞い散り、僕達の上に降り注ぐ。 「お前、そうしてると、桜の精霊みたいだな」 「へ?」 「最初に会った時もそうだった、あの時は花粉の事も忘れて見惚れたもんだ。大嫌いだったこの季節だけど、お前のお陰で少しだけ好きになれたんだ」 そう言って先輩は綺麗に笑った。

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