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31.『桜色の恋煩い』
言いたい。けど言えない。ひと言なのにとても重くて難しい想いの呪文。一度でも口にすればひき返すことができなくなってしまう。
だから僕は言わない。決して口にはしないと誓った。だって怖いから。
「はあ……。切ないな」
「なに黄昏てんだ」
やにわに耳もとで声がかかり飛びあがる。
「わっ、驚いた。好太(こうた)か、びっくりさせないでよ」
「ぼけっとしてるからだろ、ったく凛桜(りお)は隙だらけだな。俺が後ろに立ってたことすら気づかねえしよ」
「だって……考え事してたんだもん」
好太が好きだって。けど口にはできず切ない。
「なあ俺の名前呼んでみ」
「? 好太」
「もっかい」
「好太」
「──へへっ」
好太の喜びのツボがよく分からない。けどすごく嬉しそうな顔、だったら───
「好太好太好太」
「んだよ、連呼すんな──照れんだろ」
「なにそれ、意味わかんない」
「うっせ。ちくしょう、いつか凛桜を照れさせてやっからな」
そうぼやく好太の顔は桜の花びらのような淡いピンクに染まっていく。可愛い。
いつか伝えられるといいな、「好太のことが好き」だって──────
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