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41.『薄紅色の神隠し』

『桜の木の下には死体が埋まっている』なんて言うけれど。  僕の家の桜の木の下には君が眠っている。  小さい頃からいつも一緒だった。僕よりもずっと大きな体で、近所のいじめっ子から守ってくれたっけ。  全身真っ白な毛並みで、ピンと立った耳。フサフサの尻尾。銀色のキリッとした瞳。狼みたいって言われてたよね。  ずっとずっと一緒に居てくれるんだって思っていたんだよ。  春夏秋冬この桜の木の下で君と一緒に過ごした。  ひらひらと薄紅色の花弁が舞い散る中、僕は桜の木を見上げ目を細めた。  去年、飲酒運転の車から僕を庇ってシロは死んだ。  本当に突然、僕は一人になった。  もうすぐこの家は取り壊される。道が出来るんだって。この木は公園に移動するらしい。  全部なくなっちゃう。大事なもの全部。  僕は桜の木にそっと額をつけて目を閉じた。涙が止まらない。 「僕も一緒に逝きたかった」 『⋯⋯ならば共に来るか?』  僕は目を見開いた。  顔を上げると桜の花びらが次々と舞い降りてくる。  幻想的な光景の中、誰かが僕に手を差し伸べた。  ――そして、今。僕の隣には犬神様が居る。神隠しにあったなんて騒がれているけれど、僕は今幸せだ。 「シロ。これからはずっと一緒に居てね」 end

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